天候は曇り。ただでさえ寒い季節なのに、太陽の暖かみはなく風もある。
こんな日はせめて屋内競技にしてくれればよいものを、体育教師は「走れば熱い」と言い張って、わざわざマラソンをするように告げた。

「寒い、寒すぎるぅ…かすが、よく平気で立ってるね…」
「私は寒さには慣れてるからな。舞雷は寒がりすぎじゃないのか?」
「普通だよ…ほとんど皆私と同じくらい寒がってるでしょ…」

まだ走り出していない所為か、体は全く温まっていない。皆舞雷と同じように自分の体を抱くようにして小さくなり震えている。
平気な顔をしているのは、かすがと数名の男子くらいだ。

さて、ぶつぶつ寒い寒いと言い続けて震える舞雷を目にして黙っていられない男が二人いる。
石田三成と毛利元就である。

二人は同時に動き出した恋敵を睨みつけると、我先にとジャージを脱ぎ、舞雷に差し出した。
当然、ぽかんとする舞雷の前で、二人はまた火花を散らす。

「舞雷、そこまで寒いなら上着を貸してやる。着ろ」
「あ、そういうことだったんだ。ありがとう三成君!」
「くっ…我も貸してやる、我のを着るがいい!」
「え、元就君も?二人とも走る前から何で暑がってるんだろうって思ってた…ありがとう」

受け取って貰えた男二人はご満悦だが、二着も受け取ってどうするんだとかすがは思った。
案の定、舞雷は受け取った上着のどちらを羽織るべきか悩まされ、二着一緒に…と思ったが、既に着こんでいるので気が進まない。
かといって自分の上着を脱いで、二人から受け取った二着を着るのもばかばかしい。

「あー…あの…」
「毛利のはサイズが小さいからな、その上から着るのなら私の方にしろ」
「ワンサイズしか変わらぬだろうが!МだろうがLだろうが、男物なら舞雷には大きかろう」
「頑張れば全部着れるかもしれないけど、私、雪だるまみたいになっちゃうよ…」
「気にすることがあるのか?」
「男物は大丈夫だというに」

男物だから、と主張する毛利に「お前は舞雷の胸のふくらみが目に入らないのか」とかすがは(面倒臭いので心の中で)鋭くつっこみを入れながら、教師が吹いた笛に合わせて走り出した。

「え、もう?もう走るの?」
「あの教師は先陣切って走り出したからな、気づかんだろう」
「我のを先に着て、次に石田のを着ればよい」
「ん、え…両方?」
「そなたが我がよいと言うなら全く問題はない」
「その場合私は腹を立てるがな」
「じゃあ三成く・」
「その場合我が腹を立てる」
「………」
「だから二着着ればとりあえずこの場は丸く収まるのよ」

混乱した舞雷は完全に固まってしまい、その隙に毛利が自分の上着を彼女に着せた。
次は私と言わんばかりに毛利を押しのけ、その上から石田が上着を着せた。

腕を通した時点で大分きつかったのに、三成がご丁寧にチャックまで閉めてやろうとしたものだから、チャックは舞雷の胸下で悲鳴を上げた。冬用の厚着をしていてもはっきりと判る舞雷のふくよかな胸が、おさまる筈がなかったのだ。
ジャージの間からはち切れんばかりに胸がはみ出ている様があまりにも刺激的だったので、二人は声も出ない。
急に黙って自分の胴体を見つめている二人を見て、舞雷は頬を膨らませた。

「だから…だから言ったじゃん!雪だるまになっちゃうって!」
「いや…雪だるまは違うんだ舞雷…」
「そのチャックを降ろせばよいのではないのか…?」
「雪だるまみたいだからビックリしたんでしょ!」
「だから違うと言っているだろう、そうじゃない、その…」
「チャックを降ろせ!」
「もういいよ!二人ともイジワル!知らない!」

舞雷は勘違いしたまま腹を立て、ダッと走り出した。
そのまま他の男共に見られてはかなわないと二人も走り出したが、大きく揺れるそれを指摘することは出来なかった。

「……舞雷どうしたんだ、その卑猥な格好…」
「ヒワイ!?」


はしるはしる。