「舞雷、我はそなたの為なら駒の百人でもそなたに捧ぐぞ。首を斬ってそなたの前に並べてやる」

毛利様、貴方が私に求愛しているのは重々承知ですが、一体何を言っているので?そんなことをして私が「毛利様すてき!嬉しいです!喜んでお嫁にまいります!」なんて言うとでも思っているのですか。(寧ろどん引きですよ)

「舞雷、私はお前の為に家康の首を用意する。いや、首だけでは足らん、生け捕りにしてお前の前で解体してやる」

凶王様、それはもはやただの私怨でしょう。貴方も私に求愛しているのは重々承知ですが、もう本当に何を言っているので?二人して私が残虐なことを好む女だと誤解しているとでも?

「いい加減にしてくださいませんか、私は残忍なことは嫌いです。首とか斬るとか解体とか、そんなものを見せられたらお嫁にいくどころか二度と逢いたくありませんね!」
「そうであったか。ならば、百人の駒をそなたの奴隷に遣わす。勿論男は全員去勢だ」

奴隷いらない!去勢も必要ない!

「くっ、私も豊臣の全兵に命じる!舞雷、お前を秀吉様と思い、総ての要望に答えるように!」

だからそういうのいらない!豊臣秀吉と思われたくない!

「何なんですか、お二人とも!もっとまともな求愛は出来ないのですか?さっきから首とか奴隷とか、女が喜ぶと本気で思っているのですか?傲岸で高飛車な女ならまだしもっ…いや、私をそう思っているなんてことは…?」
「そなたのなんと可憐で女々しいことよ」
「ああ、可憐で女々しいな」
「そうですか、安心しました。女々しいは適切ではないですが」
「「………」」

二人は怪訝そうに顔を見合わせた。
まったく、確かに恋愛に疎いであろうことは二人の性格からすぐに察せるものの、まさか此処までとは。

「もうよいです。私には、お二人のどちらも選ぶことは出来ません」
「いや、拒むことは許さぬ。我も石田も妥協はできぬ。そなたがどちらか選ばねば収集がつかぬのだ」

毛利様はど厳しく真顔で言い放ったが、収集がつかないのはどちらも同じだ。選ぼうにも二人の土俵はまるで同じで、どうしようもなく駄目なのだから。

「舞雷、私を拒んでみろ…毛利と答えた瞬間、お前を攫って地下牢に繋いでやる」
「それを言わせれば我も同じよ。我に恥をかかせてみよ、ただでは済まさぬ」

まったく、私を口説こうにも同じ(駄目な)ことを言い、同じ(駄目な)ものを提示し、同じように恐ろしいとは。

「ならばお持ちください。仏の御石の鉢、蓬莱の玉の枝、火鼠の裘、龍の首の珠、燕の産んだ子安貝。このどれかを。お持ちくださった方にお仕えします」

もし二人がまともに求愛出来ても、どちらかを選んだ時点で恐ろしい目に遭うのだから。
私から選ばずにいられる方法はこれしかないと、このあまりにも有名な難題を吹っ掛けた。二人はまた顔を見合わせ無表情で、これは些かやりすぎたかと不安を感じた時。

「よかろう。ひとつと言わず総て用意する」
「毛利…私に勝てると思うな」
「戯言を…」
「祝言の用意をして待っていろ、舞雷」
「………そうですね、頑張ってくださいませ。本物をより多く入手した方にお仕えしますから」

二人は勇んで私の前から去って行く。
当然これらの本物を揃えることなど不可能なのだが、この不安が杞憂で終わるかどうかこそが不安で、自分が本当に月の人なら良かったのにと思った。


淡月に願う