早朝。
もの凄く早く目が覚めてしまったということにして二階から降り、友人たちとの待ち合わせ時間までの数時間を一階で過ごすことにした。
というのも、同じく二階に自室を構える兄の三成が、私が出掛ける気配を感じ取るとそれはもううるさく妨害してくるのだ。やれ私は聞いていないとか、許可していないとか、誰と何処に行って何をして過ごしてどうやって何時に帰る……と、まあうんざりするのである。

加えて、今日出掛ける友人の輪にこれまた火種が混じっていて、とてもじゃないが三成には言えないのだ(誤魔化そうにも、私は昔から嘘がヘタクソらしく、すぐばれてしまうのだ)。

わざわざ早起きしてこっそり一階に降りた瞬間でさえ、異変を感じ取って三成は突進してきた。既に「早く起きちゃったから――」と説明し、二階に送り返したが、果たしてこのまま一階にいてもいいものか?
出掛ける用意は自室に戻らなくとも良いように支度してはあるが、待ち合わせ時間まで此処でゆっくりしていたら、別に朝寝坊じゃない三成をかわすことなんて出来ないのでは…?

とにかく詰めが甘かった!

こうなれば、仕方ないがすぐにでも家を出て、その辺で時間を潰すしかない。
まったく、たかが友達同士で遊びに行く程度のことで、何故こうも苦労しなければならないのか。つくづく過保護な兄を持った自分が可哀想になってくる。

ぶちぶち文句を言いながら鏡の前で髪を整えていると、静かで小鳥の鳴き声くらいしか耳に入ってこなかった筈が、不穏な音を聞き付けた。それはまだ大人しいものだったが、次の瞬間にはがなり立てるであろう、足音。

……詰めとかそういう問題じゃあないのかも知れない。

「あ、あの〜…違うよ、うん」
「黙れ、弁解の余地など与えた覚えはない。お前の目論見など端から見通している」
「め…メンバーも見通してたりするのかな?」
「舞雷…お前は私をなめているのか?家康がお前に近づいて着目しない筈がない!」
「ああ…知ってるんだ……」
「よりにもよって家康だと!?私があれを嫌っているのが判らないのか!?」
「判ってるよ…鬱陶しいくらい、判ってるよ……だからこっそり出掛けようと思ったんだけど」
「私の目を盗んで本当に出かけられると思っていたのか?」
「思っていたから早く起きたんだけどなー……わっ、やめてよ!」

三成は憤慨しながら私の頭をぐしゃぐしゃにした。言われる前にこれで判った。行かせない気だ。

「大体、家康さんいなくたって行かせたくないんでしょ!」
「判っているならくだらん小細工などするな!いいか、一歩も外を出るな!家康には私から舞雷は欠席すると伝える!!」
「ただの友達と遊びに行くだけでこれだもの…!異性とデートしようとして色々頭を悩ませる可哀想な未来の私が目に浮かぶよまったく!!」
「案ずるな、お前は一生生娘だ」
「判った、三成は妹に過保護なんじゃなくてイジワルなんだ。嫌がらせをしているに過ぎないんだ」
「何だと!?私程にお前を気遣い大事にしている男はいな・」
「ああはいはいはいもういいです」
「…………」

此処まで来ると怒りなんて感じないのだ。
三成が言うように本当に私、一生生娘なのかも知れないな…なんて考えたら、冷たい風が吹いた気がした。

「三成のわがままで行かないんだからね。家康さんだけじゃなくて、今日のメンバー皆に連絡してよね。「私が行かせたくないから舞雷は今日行かない」って言うんだよ。どんな反応だったか聞かせてね。今日のメンバーはね、市でしょ、幸村でしょ、元親でしょ、鶴ちゃんでしょ、佐助くんもくるかなぁ、よくわかんなかったんだよね」
「……いいだろう。だが大人しく家に・」
「ああ!あと黒田さん。黒田さん忘れてた!」
「…そいつは無視でいい……」


妨害的な兄の愛