「三成様、お茶していこう!おいしいお団子出すところがすぐそこにあるから!」
「……今日だけでさんざ食っただろう…まだ食うのか」
「当然!ほら早く!!」

と、城を出てこれで三軒目となる茶屋へと、舞雷様は夫である三成様の手を引っ張って走り出した。
これまでに勧められるがまま胃袋に流し込んだ大量の茶と団子やまんじゅうが腹の中で揺れる気持ちの悪さに耐えつつ、なんとか私も駆け出して二人を追いかける。舞雷様はすぐそこだと言ったが、目当ての茶屋は思ったより遠く感じた。

……さて、このお散歩やお買い物というより茶屋巡りが始まったのは、陽気の良い午後のこと。あらかた執務も終えて三成様が舞雷様を構おうとしたところ、相当暇を持て余した舞雷様が、外へ出たいと強請ったからだ。
そこに何故、護衛紛いに私が同伴しなければいけないのか。実に不思議だが女中頭の命令では仕方ない。お声がかかった時は気が進まなかったが、1軒目の茶屋で舞雷様お気に入りの団子を口に入れた頃は最高に気分が良かった。茶を啜りながら意味不明な同伴を命じてきた女中頭へはじめて心から感謝した。…が、結局今、とてもつらい。

「いただきまーす!」

三軒目の茶屋で皿に乗った二本の団子串が、目の前で試練のように禍々しく鎮座している。ツヤの良い白い団子とよもぎの団子は美味なのだろうが、満腹の今、邪悪なものでしかないのだ。
私と同じく結構な量を食べさせられた三成様は、見るからに辟易している様子だった。いつものように一喝してくれれば茶屋巡りも終わりそうなものだが、注意できない心境は痛いほど判る。にこにこと満面の笑みを浮かべる舞雷様を、一体誰が叱れるというのか。

「…貴様がそこまで大食とは知らなかったぞ」

叱るのは諦め、三成様は嫌味を言った。確かに舞雷様は普段、好き嫌いが激しく大食ではない。

「うん?甘いものは別腹だよ、三成様。そんなことも知らないの!」
「それは貴様に限ってだ。私は同腹だ、用意されてもこんなもの食えるか。ここまでにどれだけ食わされたと思っている」
「食べないの?じゃあ私が食べる」
「あ…舞雷様、実は私も満腹で…」
「え?そうなの?わかった、ちょうだい」
「……全て食う気か?」
「さすがにお腹いっぱいになってきたけど、まあお皿三枚くらいなら」

さすがに皿を突き返した三成様に便乗すると、舞雷様は快く皿を引き取ってくれた。
けれどよくよく舞雷様を観察してきた私には判る。三成様と私が団子の乗った皿を拒否した時、心なしか淋しそうだった。だからしきりに同じく甘味は別腹といった風の真田様と出掛けたがるのだ。

申し訳なく思いつつ、舞雷様本人もどうやら満腹の様子なので、今日のところはこの茶屋巡りも終わりそうだ。

「めかしこむための道具を強請ると思った」
「えっ、あ、そうですね…でもいい呉服屋も見向きもせず素通りでしたし…」
「一度として強請られたことがない。出掛ければいつもこれだ」
「……いつもこれなんですか…」

耳打ちするようにいきなり話しかけてきた三成様は微かに困り顔で、団子で頬を膨らませる舞雷様に茶を渡す。

「この食い気を色気に変えるにはどうしたらいい」
「え゛!?」

向き直った顔はやけに真剣で、投げられた問はやけに難解で。

「答えろ」
「(答えろと言われても!)あ、あの…えっと……うぅ…」
「私は真剣に悩んでいるんだ…!」
「(私だって真剣に考えてますよ!!)すいませんー!」
「え、どうしたの?」

徐々に殺気を帯びてくる三成様への恐怖で、胃の中のものが謝罪と共に飛び出そうになった。


そして私は胃を壊す!