送別会翌日。
飲み比べなどしてしまったおかげで、いつになく泥酔した舞雷は見事に二日酔いになっていた。頭は痛いし体はだるいが、休むわけにはいかず。いつも通りに出社し、またいつも通りに新人のお茶出しを手伝ってやろうと給湯室へ顔を出した時だった。見慣れた気弱な新人が、なぜか聊か強引に茶の乗った盆を舞雷へ渡したのである。

「…え?」
「昨日はお世話様でした…!お茶淹れておきましたので、どうぞ!」
「……ん?」

恩にきせるつもりはないが、どうぞはおかしいんじゃないか?
舞雷は渡された盆を反射的に受け取ってしまったが、これも二日酔いのダメージの所為かと頭を抱えて立ち尽くす。しかし目の前で嬉々としている女性が幻覚とも思えず、とりあえず茶を出しにオフィスへ出て行った。

「おはようございま―――ん!?」
「っ、来い!!」
「熱ッ!な、何ですか課長、いきなり!」
「いいから黙ってついて来ぬか!!」

盆に自分も含め数名分の熱い茶が乗っているのを知らん顔し、舞雷の姿を見とめてすぐ駆け寄ってきた毛利は舞雷の腕を強く引く。
彼女には何事か全くわからなかったが、傍にいた同僚がすぐに盆を引き受けてくれたので、大きなやけどはせずにすんだ。

そのまま引きずられるようにして空いた会議室に放り込まれると、舞雷は痛む頭で必死に自らの失敗を探ろうとしたのだが、思い当たらない。ならば昨晩の送別会で失礼なことでも言ったのか?と考えるも、泥酔していたおかげでほとんどの記憶がなかった。

「…その様子では気づいていないのだな」
「はぁ…」
「記憶を無くす程酔いおって、間抜けめ…!」
「………」

始終苦々しい表情で苛立っている様子の毛利の発言で、彼女はやはり昨晩の酒の席で何かがあったのだろうと確信した。

「…課長、というか…元就。酒の席のことなんだからいいでしょ、無礼講無礼講。それに私からの暴言なら別に無礼講じゃなくても…」
「かような生ぬるいものではないわ!」
「……え、酒の勢いで元就への鬱憤をまき散らしちゃったんだと思ったけど…違うの?」
「鬱憤どころではないぞ…」
「…………」
「………本当にわからぬのか」
「………ん…?!」

ここでようやく、舞雷は給湯室での異変との関係を疑い始める。
毎日申し訳なさそうに毛利への茶出しを乞う気弱な女性が、舞雷が茶を運ぶのがさも当たり前だという態度を見せた。
残念ながらオフィスにいたのは一瞬だったので、他の社員たちの異変については全くわからないが、彼女にはなんとなく答えが見え始めていた。

「……あ、あわわ…まさか…!」
「そうだ…。我らの関係が露呈した」
「嘘――!!全然思い出せない…!」
「…先に責めたが、我も同じだ…情けないことに記憶がない。出社してみれば、いつ結婚するだの、どうりで仲が良いだのと…!」
「酔った勢いでそういう会話をしちゃってたと?」
「…なんにせよ、もう隠し立てはできぬ。当然仕事は仕事、露呈したとて態度も待遇も変わらぬぞ」
「それはいいけど…ああっ!嫌だ、恥ずかしい…!恥ずかしすぎてオフィス戻れない!」

二日酔いはどこへやら、舞雷は顔を恥で真っ赤に染めてその場にうずくまった。
毛利は舞雷に事を話したおかげで冷静さを取り戻し、

「そなたも退社せよ」
「は!?あ、今日…?」
「いや、どうせどちらかが異動だ。これを機に寿退社とせぬか?」
「……(嗚呼、この人は…!)」

更に舞雷を赤面させた。