西軍の中で名のある武将たちを集めての軍議が執り行われることとなった。
方々から大阪城へ結集した面々を待機させるために、舞雷はそこかしこを走り回っていた。というのも、全員が通した広間で大人しく腰を据えているのでなく、落ち着きなく城内をフラフラする者ばかりだったからだ。 ……まさか、同盟国の者とはいえ、放置して城内を自由に散策させるわけにもいかないし、全員が揃ってすぐ軍議を開始せねばならないのに、子供よろしく行方不明ではたまったものではないのである。 とにかく出席者が揃うまでは、大人しく広間にいてもらわなくては。
「何度言ったらわかるんですか!困りますよ真田さん!座っていてください!」 「ぬ?!」 「あ。すいませんね、この人大人しく座って待つのが性に合わないみたいで。俺様が責任もって座らせておくんで」 「頼みますよ、猿飛さん…厠の位置はわかりますよね…?」 「はいはい、さっき聞きましたよー。うちの大将が催したら迷わないよう同伴するし」 「…結構。本当にお願いします」
元来我の強い舞雷はキッと牽制するような強い瞳を向け、次なる問題児の方へ走って行った。
「長曾我部さん!探検禁止!!もう三度目ですよ!」 「うお、抜け目ないねぇ。わかったよ。しかし待ちが長すぎやしねぇか?誰待ちだよ」 「あとは毛利さんが到着するのを待つだけです」 「……あー、思ったより長く待たされそうだな。部屋割り振ってくれてんだろ?そっちにいちゃ駄目なのかい?」 「ちゃんと文で確認をしています。それほど遅れず到着する筈ですから。軍議の内容も重要を極めることですしね、到着次第すぐ軍議に移れるよう、此処にいてほしいんですよ」 「…ふーん。めんどうくせぇなァ」
それはこちらのセリフだ、と舞雷は半ば怒りに火がついたが、口を開く前に長曾我部が椅子に戻ったので口を噤んだ。
…しかし、毛利の到着が本当に遅い。こういうことがないよう、大谷が事前に忠告を送ってあると言っていた筈だが。
「…まさかあの人、来ないなんてことはないでしょうね?」 「さァ…。それがないよう、奴には特に念を押したが…果たして効果があったかどうか」 「まったく、落ち着きのないこのありさまを見てよ。無駄に疲れたわ」 「ご苦労。ぬしの働きでいくらか大人しくなったではないか。あとは毛利が到着し、三成が戻れば・」 「ああっ!そうだ、毛利さんが来ても三成がいないじゃないの!」 「……三成を責めてやるな。ぬしが追い出したのであろ」 「たかが茶菓子を買いに出て、どうしてこんなに遅いの!」
舞雷は軽く大谷に怒鳴ると、彼の言った通り自分が三成を買い出しにやったのに、今此処にいないことに大層腹を立てた。 遅い遅いと彼女はわめくが、まだ三成が出て行ってから大して時間は経っていない。 三成を心の底から憐れみながら、大谷は舞雷よりも集まった落ち着きのない連中の方が相手をしやすいと悟り、巫女の方へゆっくりと近づいていった。
……さて、ようやく慣れぬ買い出しを終えて戻ってきた三成は、心当たりもないのに憤慨している様子の舞雷に詰め寄られ、唾を飲む。
「どうした、私は言われた通りに…」 「遅いじゃないの!連中は大人しくしていないし、私ばかりそこら中走り回って!」 「……?」 「さっさと軍議でもなんでも、終わりにして横になりたいのよ、私は!わかる!?」 「…もう全員揃ったのか?」 「揃ってないから皆そわそわしてるんでしょうが!!とりあえずその菓子の中に団子があれば一人は良しとしても!」 「……」
もはや支離滅裂な舞雷の言うことが三成に正確に伝わる筈もなく、とりあえず菓子の包まれた風呂敷を渡してみると、彼女はひったくるようにしてそれを奪った。が、しばし考えるように口を噤むと、それで殴るように三成へ返す。
「配るのは面倒くさい」 「…ああ、私が置いてくればいいのだろう」 「それに私、疲れちゃったし。走り回った所為で足がむくんでるかも」 「……揉んでやろうか?」 「………」
三成の提案に即答はしなかったが、舞雷はようやく機嫌よさそうに口角を上げた。
宥役
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