ふと不思議なことが起きたのだが、それが夢でないと気づいたのは翌日の早朝だった。

突如不可思議に現れた形になった私は、当然不審者と見なされ、大勢の強面に囲まれたうえ、本物の刀を向けられるという酷い仕打ちをうけた。が、その時は完全に夢だと思い込んでいたおかげで、斬られようが痛くもないと高を括っていたのである。

…そう、私は過去も過去…戦国時代に立っているのだ。

夢だと思っていたが故だが、あまりに気丈であった私を怪しげな包帯男が気に入って、なんとか一夜を無事に過ごした。
しかしどうだろう。今になって思うと、なんと恐ろしいことだろうか。

ひとまず客扱いとなり、今は個室に一人だ。
このまま逃げてしまえればいいが、逃げるにしても…この世界には頼りにできる者はいない。
この場を切り抜けることができないのならば。と、もといた世界に帰る方法を模索する。が、来た理由さえ判らないのに、帰る方法が見つかる筈もなかった。まさに八方塞がりだ。

「…なんだ、もう起きていたのか」
「わっ!!!」
「………」

堂々と戸をスライドさせて現れたのは、思い出せば昨日私を「斬り捨てろ!」と怒鳴っていた男だった。
腹の底から悲鳴を吐き出すと、男は怪訝そうな顔をして、距離を詰める。手には刀。死ぬのか今度こそ。

「……刑部が言っていた」
「!?」
「…貴様を嫁にすれば、ことがうまく運ぶらしい」
「………ふん?」

何事だ。ギョウブって何だ。ヨメ?コト?
私を殺すなら手にしている刀で一撃ではないのか。わざわざ心を錯乱して発狂死でも狙っているのか?

「私は信じないが、貴様は勝ちを運んでくる強運の女なのだろう?」
「は…?!」

顎が外れるかと思った。どちらかというと不運だぞ。
男は続ける。

「空から現れた貴様はまさにそれだと。貴様を手に入れて勝ちに寄るならそれもいい。殺すのは容易いが。どうなんだ、刑部のでまかせか?」
「………」

これは暗に「でまかせなら殺す」ということじゃないのか。だからわざわざ刀を持ってきているんだろう。
訳もわからず、とりあえず目先の命を拾う意味で首を縦に振りまくると、銀髪の男は表情を変えず更に詰め寄ってくる。

「…刑部の戯言はどうでもいいが、嫁になるというなら私を裏切るな。万一にでも裏切ってみろ、その体を斬り刻む」
「………」

……え、嫁?



―――後に刑部大谷氏に聞いてみたところ、からかい100%だったらしい。
鵜呑みにして結婚するならそれもよし(どうにも女がつかず大谷氏はじめ部下達は心労絶えなかったらしい)、やはり邪魔だと斬り殺すならそれもよし、と。

これを聞いた時は切なくなったが、私はまだここにいる。
帰る方法を探そうものなら、裏切り行為で斬り殺されてしまうからです。


幸運?不運?