「……やれ、三成よ…その手にしているものは何だ」
「見ての通りだ刑部」
「………大遅刻だぞ。早に座れ」

大事な軍議というのに堂々と遅れて参上した大将は、悪びれる様子もなく、刑部に指摘された腕の中の人物…初々しい幼嫁舞雷をそれはもう大事そうに運び、そっと席についた。

「…さて、ようやく三成が来た故、話を進めるとしよう」

抱っこされている舞雷はというと、とりあえず大人しく腕の中に納まっている。
刑部のみならず、軍議に参加している臣下の者たちもはじめは同席を苦々しく思ったものだが、静かにしているのならばよいと口を噤んだ。
しかし、抱っこされている舞雷の手には鈴つきの毬があった。

「斥候を五名程南東から・」

ちりんちりんちりん。

刑部の淡々とした声が侵攻の策を告げる静かな場で、舞雷は毬を机上に転がしたのである。
広げていた図面の上にそれが静止した時、刑部は静かに立ち上がった。

「三成、それが可愛いのはよく判る。何しろぬしが女に惚れるのも稀有なうえ、婚礼の儀もあげたばかり。離れたくない気持ちは判る」
「何が言いたい」
「…判るがなァ、大事な軍議に同席させるのは如何なものだ?我や他の者の気が散る、ぬしも耳に入っていない」
「つまり…刑部。私に舞雷を追い出せと、そう言っているのか」
「察しの良いことだ。判れば外へ・」
「ならば、私も退室する。夫婦は常に寄り添うものだ。そうだろう舞雷」
「うん!」

明瞭な返事をした舞雷は、いつの間にか自分も机上へ上がり、這うようにして毬を捕まえたところだった。
それを三成が抱き上げ、また入室してきた頃のように腕に抱く。

「大将が何も知らずに戦場に立つというのか?」
「知るか。立ちはだかる敵皆斬滅すればいいのだろう。他にあれば貴様から告げろ」
「……端からぬしに工作は望まぬが。まァよかろ…言ってもきかぬ故な」

刑部がまさか三成の退室を許すとは思わなかった臣下たちは目を丸くして驚いたが、誰一人とて直接意義を申し立てる者はいなかった。

無事静かでつまらなそうだった部屋を抜け出した舞雷は、降ろしてもらうと毬を遠くへ放り投げては追いかけて遊びはじめる。

「舞雷、こっちへ来い」
「なーに?」
「数日後戦があるからな」
「ん?」
「この帯でお前を背中にくつけて戦に出る。お前は絶対に斬らせないが、万一流れ弾や矢に掠ってはたまらんだろう」

そう言って三成は、舞雷のために誂えた兜をかぶせた。


ずっと一緒