「家康…貴様の全てを燼滅してやる…!」
「覚悟しろイエヤス!」
「……ああ…三成は判るんだが…」

禍々しい空気と殺気を振りまきながら、射殺すような視線を送るのは宿敵三成。こちらは既に見慣れたもので、家康も「ハイハイ、またか」という風なのだが、今日は見慣れない人影が三成にくっついていた。
こっちは完全にお遊びのようで、三成とは対照的に、嬉々とした様子で笑っている。更に、手にしているのはその辺から拾ってきたであろう渇いた枝で、大量の血を吸った本物の三成の刀と比べると…酷く滑稽に見えた。

「悪の権化め!」
「……おい、三成…?」
「舞雷、家康は私の獲物だ。お前はあっちのでかいのを相手してやれ」
「ヨッシャー!」
「………!」
「いやいや…忠勝を舞雷に相手させるって言うのか?無謀だ…」
「フン、私は大真面目だ」
「舞雷は完全にふざけてるぞ」
「舞雷の愛らしさに勝てる男などいまい」
「……その言い分は判るがなぁ…」

三成の実妹である舞雷は、それはもう勢い十分に忠勝に向かっていく。
確かにこの純真無垢な舞雷という娘、相手の戦意を殺ぐくらいには愛嬌があるが、かといってその隙を突く力はないので勝つこともない。

「えいや!」

ぱき。

渇いた脆い枝を振りかざし、忠勝の堅そうな体に振り下ろしたまでは良かったが、舞雷は棒立ちの相手を前に、早くも武器を失った。

「なっ…何…!こいつ、強いぞ!」
「……三成、忠勝がものすごく困っているんだが」
「知るか。貴様の首は此処で落とす。死んで秀吉様に・」
「わー!お兄ちゃん、反撃が…反撃が!」
「何!!」

三成にしたら、あまりにも意外すぎることだった。彼の考えでは、どんな血も涙もない男であろうと、男である限り舞雷のかわいらしさに負ける筈だったのだから。

しかし実際忠勝は反撃に出たわけではない。いくら戦国最強とうたわれる男でも、彼女を相手に斬りかかる筈もなかった。単に彼女をかわし、本当に危ない家康の方に近寄ろうとしただけなのだが、舞雷は動体視力だけは優れていた。

「家康貴様ァア!」
「な、何だ?!忠勝は舞雷に斬りかかったりしないぞ!」
「舞雷戻って来い!私の後ろに隠れていろ!」
「わーん!」
「………」
「だから違うというのに…」

涙を散らせながら逃げていく舞雷を忠勝がどこか淋しそうに見送る。
無事三成の背に到着した舞雷は、隠れるどころかその腰にしがみつき、ぐずぐず鼻水をすすった。

「怖かったろう…。お前を怖がらせた連中は、私が残らず燼滅してやるからな」
「ぐす…っ、うん…」
「…待て…三成、舞雷を腰にくつけたままワシと戦うのか?」
「頭を垂れろ」
「……やりづらいなぁ…」

結局一撃刀を振った振動で舞雷が舌を噛んだので、三成たちは大人しく帰って行った。


愛らしさ強し