※まったく無い、よりは性的表現がありますが、微々たるものです。
「や、やだ…脱がさないで!」 「…なんだと?」
長い年月をかけてようやく閨での睦言も次の段階へ進んだわけだが、いざ脱がしにかかるとこれだ。いい加減忍耐力にも限界があるのだが、どうにもこの女は我儘が過ぎる。
…どうせこの暗さだ。灯りも消したし、頼りは薄く差す月光のみ。裸体が恥ずかしいというには説得力に欠ける。
「案ぜずともよく見えぬ。恥じらうのも程々にしておけ、我はもう辛抱たまらぬ」 「変態……」 「………」
次は何だ、こちらのやる気を殺ぐ作戦か?
構わず静止をかける手を振り払い着物の袂を引っ張ると、舞雷はぼそりと、しかし確実に耳に届く声量で余計なことを口にする。 もしもこれが本当に我のやる気を殺ぐ作戦なのだとしたら、いくらか効果はあった。
「…どうしろと申すのだ」 「……うーんと…」 「そもそも、本当に恥ずかしいのか?恥ずかしいが故、我に裸体を晒せぬと?」 「………うん」 「…嘘をつくな……」
全くあきれ返る。せめて口を噤んで大人しくしていてくれれば良いものを。
「…よいか舞雷、空気を壊すな。ふざけているなら許さぬぞ」 「ち、違うよ…別にふざけてなんか…」 「ならば黙っていろ。今は嬌声だけ聞ければいい」 「っ!や、やだ!脱がさないで!!」 「………」
…湯殿でさんざ体は見ている。ならば何故、此処まで頑なに? 訳が分からず色欲より苛立ちが勝ってくる。返す言葉も見つからず、黙って舞雷を睨めつければ、茶目っ気たっぷりと舌先をちらつかせて笑った。
今宵、ようやく組み敷くことに成功した女を抱かずに寝ろというのか? 確かに既にやる気は殆ど殺がれてしまったが、黙って引き下がってなるものか!
「貴様の裸体など湯殿でさんざ見ているわ!今更恥じらうでない!」 「うわっ!いきなり怒鳴らないでよ…。嫌なものは嫌なんだもん」 「嫌だ嫌だの一点張りでは先に進めぬではないか!つまり我に抱かれたくないということか?そうなのだな?」 「え…ううん、そういうんじゃないよ」 「………」 「ただ脱がされたくないんだよ。細かい理由は自分でもわからないや」
わからないだと? ならばもう知らぬ。力づくで脱がせてどこぞへ放り投げてしまえば文句も言えまい。
「あっ!無理にしたら泣くからね。恐怖が植えつけられて二度と一緒に寝られないから!」 「くっ…!なんだと…!」
再度力を籠めれば脅しにかかってくる。この女は、自分でも理由がわからない拒絶を何が何でも通すつもりなのだ。
「ッ、我は引き下がらぬぞ…!我に脱がされたくないと言うなら、己で脱げ!」 「無理」 「ならば脱がずともよい!両足を開いて上げよ。着たままする」 「え、いいの?」 「よくないと言ったところで貴様が意見を変えるのか…?」 「ううん、変えない」
仕方なく腰辺りまで捲りあげてみたが、それにも譲れない限度があった。せめてしかと胴まで捲ってしまえばやり易いものを、腿の中間辺りでもう嫌だと酷い拒絶が入るのだ。
「っあ、やだ、そんなに捲っちゃだめ!」 「くぅ…っ集中できぬ…!」
まったく酷い夜だった。
理想的な夜を
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