ああ、今日も私を踏んでくれなかった。と舞雷は塞ぎこんでいた。

元来いじめられるのが大好きな舞雷は、鬼畜で加虐心旺盛な毛利元就の軍に「捨て駒バンザイ!」と意気揚々と参列した。したはいいが、もう三月になるというのに踏まれることは愚か、ろくな功績も上げていない所為で近づくことさえ出来ていないのが現状だった。

いよいよ心が折れそうになって縁側に座っていると、毛利の雑用係が数名まとめてやってきて、舞雷の肩を叩いた。何ごとかと顔を上げた彼女に告げられたのは素晴らしい提案。

「え、私が?!」
「誰もあの3人が寄り集まった所に近づきたくなくてな…お前、平気だろ」
「ええ、平気どころか最高です」
「……よし、決まりだな」
「ヒャッホーウ!!!」

舞雷は願ってもない僥倖にうかれ、拳を振り上げた。そう、近日凶王と同盟を結んで西軍入りしたおかげで、逐一報告が必要となる自国の主が、よりにもよって怒りの塊凶王と不幸ヒヒッな刑部大谷とずっとつるんでいるものだから、畏れた彼らは代理を彼女に頼んだのだった。

「(ウフフ…!毛利様だけじゃなく凶王様までいるなんて最高すぎる…!)」
「……おいこの女本当に平気か?すげぇ怖い笑みを浮かべてるけど…間者とかだったら俺ら死ぬぞ」
「ああ、心配無用。こいつのことはよく知ってるんだ。ただの変態だよ」
「変態?!てっきり元就様に惚れてるから引き受けたとばかり…」
「まあ惚れてるといえば惚れてるけど…普通の女のそれじゃなくてな、踏まれたいんだと」
「……そっか」
「ああ」
「ウッフフ」

今も毛利は、石田、大谷と軍議中だ。
舞雷に仕事を委託した雑用係らは彼女をその場所に案内し、「がんばって(踏まれろよ)」と励ましの言葉を置いてそそくさと去って行った。

「失礼します!!」

舞雷は返事もきかず戸を力強く開け放った。当然乱入してきた舞雷に三人の視線が注ぐ。

「何だ貴様は!!」
「…すまぬな、石田。あれは我の駒だ。とりあえず斬るな」
「ぬしも面白い女を飼っておるなァ」
「(さっそく凶王様がマジギレ、毛利様も眉を寄せてらっしゃる…!!)」
「何の用だ、舞雷。早く申せ」
「ふ…!」
「「「ふ?」」」
「踏んでください…ッ!!」

本当は、別の用事があった。しかしその内容など舞雷は聞いていやしなかったのだ。
頬を桃色に染め上げていじらしくねだった舞雷は魅力的に見えたものだが、口にしたことがことだ。毛利も石田も目をしばたき、沈黙の中大谷が愉快げに笑う声だけが響く。

「大谷様は無理でしょうから、毛利様に凶王様!お願いします!!」
「……どうする、石田」
「…私は構わないが…?」
「……踏んでおくか」
「ヒッヒヒッ」

催促された二人はついに踏んでやることにした。

「…毛利、何故か私は酷い罪悪感を覚える…」
「…奇遇だな、我もよ…何だこの感覚は…!」
「幸せー!!」

舞雷はとても喜んだが、二人は珍しく気が咎めた。


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