同級生の間で妙な噂が流れた。 学生の時分、自分含め周りにいる生徒たちの殆どが色恋の話が大好きで、総じて耳が早い。それが事実でなくても。 今流れている旬な噂というのがそれを物語っていた。
ただ問題なのが、その噂の中心人物が自分であることや内容まで全て知っているのに、誰も私本人にそれに絡んだ質問などをしてこないことだった。ちょっとでも噂に絡んだ話題を振ってこられたら、誤解を解く余地がある筈だ。そう思って身構えていたのに、全員で噂が本当かをその目に焼き付けたいという方針。誰かが私に意識させたらマズイかのようにふるまっている。
「…だから今日は迎えに来てほしくなかった。むしろ今日だけじゃなくて、噂が冷めるか、私が誤解をとくまで」 「馬鹿を言うな。例え『迎え来ないで』などと気の利かない不快なメールが来ても私はこうして迎えに来るし、何と言われようと明日もそうする」 「…………」 「なんだ」 「…意地悪」 「今に始まったことか」
放課後、来ないでとメールしたにも関わらず迎えに来た兄と歩いているのだが、これがその噂の元なのだ。 流れている噂というのが、「舞雷は毎日放課後年上の彼氏が迎えに来ている」というもの。校外からの年上男というのが噂に火を注いだらしい。 危惧した通り酷い視線の的になり、全く気にしていない様子の兄、三成は平気な顔だが、私はもう落ち着かなくて嫌な汗までかいてしまった。
「どこか寄るか?」 「あ、本屋行きたい」 「わかった」 「けど、やめる」 「……帰り道だろう。寄ってやる」 「そうじゃなくて…察し悪いなぁ…」 「ああ…つけてきている連中のことが気になるのか」 「…気づいてたの?」 「気づくに決まっているだろう。……だが、そこまで気になるのなら、このまま帰っていいのか?」 「え…?なんで?」
三成は一拍置いた。その一瞬で、問いかけた自分が馬鹿みたいだと思うくらい、三成の言わんとしていることが頭の中で爆発した。 そう、デートと思われているのなら、一緒に同じ家へ入っていくのはいくらなんでもマズすぎる。恋の話以上に、性の話が絡んでくると連中の噂の速度は数倍に跳ね上がるのだ。
「うわあぁあ!どうしよう!!」 「……はぁ…」 「三成はいいでしょ、もううちの学校卒業してるんだからさぁ!三成影薄かったんだよ、知ってる子いたらそこから今回の噂は壊れていくのに…!」 「あながち間違ってもいないだろう」 「うっ」
……そう、問題はそこだ。 うだうだ言っていないで、噂の彼氏は実の兄だと誰かに漏らせばこんな噂ごとき。けれど言えないことを色々と理由づけして難しくしているのは、私たちがあるまじきことになっているからで。
「私は否定して欲しくないがな」 「…ん……」 「……ただ、実兄と恋人紛いの関係というのは伏せておいた方がいいのは判っている。お前が学校でやり易いように言えばいい。外ではお前にキスもしないし、必要以上に愛情は語らない」
私だって、何となくきっぱりと「恋人じゃない。ただのお兄ちゃん」なんて、何となく言いたくなかったのだ。 ただ、噂の的にされるのは恥ずかしいし、尾行されるくらい興味を引いているのは更に恥ずかしかった。
「…このまま帰ろう。明日噂に色がついてそうだけど、もう言うね。三成はお兄ちゃんだって」 「……」 「愛してるけど、お兄ちゃんだよって」 「………ああ」
少し隠れた「愛してる」
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