「おい、どういうことだ、あ゛ァ?!」
「どういうことも何も、見ての通りだ」

生徒達の間では極道と噂される教師片倉の睨みをものともせず、三成は「だから何だ」の態度を崩さず視線をそらす。

「てめぇ、教師に向かって何だその態度は?朔も反省してんなら離せ!」
「う、ぅ…だって……」
「!!貴様ァ!私の舞雷を怯えさせた罪、此処で腹を切って詫びろ!!」
「うるせぇ!!てめぇらが規律を守らねぇから悪ぃんだろうが!!」

片倉が目をつけて腹を立てているのは、三成と舞雷の机がぴったりくっついていることだった。
校則に乗せる程のことではないが、机は均等に、どれもくっつけず配置するのが決まりである。更に三成と舞雷ときたら、机がくっついているだけで終わらず、教科書まであるのに一冊を仲良く見ているのだ。

「机を離せ!教科書は一人一冊!ノートも一冊!筆記具も一人一式だ馬鹿野郎!!」

うっかり舞雷が怯えたものだから、三成もそれはもう憤慨しているのだが。当然、三成が片倉に怯えないのと同じく、片倉も三成のマジギレだろうが怖くないので、両者譲らず額を当て合い睨み合っている状態だ。

「やっちまえ小十郎、じゃねぇ、teacher!」
「けしかけてどうするんだ独眼竜!止めに入るべきだろう?」
「じゃあお前が行けよ、家康。火に油だけどな」
「ヨシ!どうどうどうどう!」

あまりにも獰猛でクラスメイトの大半は怯えて固まってしまっていたが、肝の据わっている生徒の一人、徳川家康が馬を宥める要領で果敢にも割って入る。
当然、政宗の忠告めいた「火に油」なんてセリフは、彼の耳から抜けて遠くへ飛んで行った。

家康が突撃していった直後、片倉は生徒の介入に一瞬冷静になるのだが、三成の方は火に油どころで終わらない。刃物か拳銃を持っていたらまさに殺戮現場というありさまで怒り狂った。

「あちゃー…。これマズイって」
「拙者が止めに・」
「いやいや無理無理。旦那入っても止まる筈がない。むしろ悪化するね」
「ではどうすれば…」
「舞雷ちゃんが止めに入れば?一人おとなしくなればいいんだし」
「え?」

恥を恥とも思わぬ愛を持つ舞雷のことだ、三成が怒り狂っている様など畏れるどころか愛おしいが、片倉の恐怖ですっかり縮こまっていたのだ。そこへ急に佐助から重大任務のお達し。
私にあの怖すぎる片倉先生を止めるのは無理だと舞雷は思ったが、既に片倉はさっきまでの剣幕を失っている。もはやメインは三成vs家康なのだ。
それならば、と立ち上がり、息を吸った。

「み、三成!」
「!!舞雷…?」

舞雷にしたら、この騒ぎを鎮める為に声をかけたのではない。むしろ、

「家康君にばっかり構って…!」
「!?ち、違う!これは…」

嫉妬的な煩わしさの為だった。

美しい瞳に涙を滲ませて、これみよがしに机を引っぺがす。もう知らないとばかりに。
片倉は結果的に机が離れたので、拍子抜けしたと共に、悪化した目の前の光景をどうにかしなくてはならなくなった。
拗ねた舞雷は三成に背を向け、離れた机に座って授業が始まるのを待っている。当然、三成は気が気でない。

「舞雷、私が悪かった…!家康如きに気をとられ、お前から目を離すなど…」
「…プイッ」
「ただわかってくれ、私はお前と離れたくない。邪魔をする者は誰であろうと許せなかった。家康は特にだ」
「ワシ邪魔してないぞ!」
「うるさい黙れ!!現在進行形で私と舞雷の仲を邪魔しているだろうが!!!」
「もう……っ…わかったよ…」
「舞雷…!」
「私だって…怖くて何も言えなかったけど、三成と一緒にいるのを邪魔されるのは嫌だもん…」
「許してくれるのか…?」
「うん。私の方こそ、ごめんね」
「舞雷!」
「三成!」

がし。

この問題は勝手に解決してくれて良かったが、仲直りした二人はまた机をくっつけ初めてしまったので、ふりだしに戻ってしまった。
また机のことに腹を立てて片倉は一歩踏み出したが、先程に彼を応援していた政宗が、静かに首を横に振った。


ふたりのセカイ-続