「もう結構ですよ」 「それでは私の気がおさまらん」
華々しく飾った簪を鳴らしながら、舞雷は目の前に用意された上等な反物を、すっと男の方へ押しやった。 頻繁に花魁である舞雷の元へやってくる三成は、いつからか気に入った彼女のために手ぶらではやって来なくなった。当然花魁を買うのだからそれなりの金銭は出て行くのだが、それでは舞雷への貢献としては軽いと考えたのだろう。
「最近他のねえさんたちに睨まれるんです。嫉んでいるんでしょうね」 「それだけその女共に魅力がないだけの話だろう。お前並みに魅力的なら、私のように貢ぐ男の一人や二人、すぐに現れる筈だ」 「お厳しいこと」 「どうでもいい。受け取れ」
三成はやんわりと断る舞雷を無視して、押し返された反物を押し戻した。あまり執拗に貢物を突き返せばこの男が腹を立てるのは経験から判っていた為、舞雷は今度こそ大人しくそれを受け取ると、恭しく礼を言った。
「何か私に望むことはないのか?」 「…いただけるものは十分すぎる程いただいていますしねぇ。さあ、もう思いつきません。これ以上していただかなくとも、三成様のご好意は判っておりますから」 「……本当にわかっているのか?」 「ええ」 「ならば望め」 「………」
さて、舞雷は本当に困ってしまった。言った通り、三成から殆どの物を受け取っている。廓の女である以上望めない物も多くあるし、いい加減身につける物を所望するのは無理が出て来る。 だが望まずとも良いと押し通せば、また憤慨するのは目に見えていた。
「(まったく、困ったお人…)」 「どんな高価な物を強請っても構わない。いくらでもつぎこんでやる」 「…そうですね、では……」
形のあるものが浮かばないなら、形のないものを望めばいい。
「お金はかかりません。今すぐにしていただけることですが、如何で?」 「何だ?」 「…男の人の自慰姿、見てみたいと思っていたんですけれど」 「……」 「して、いただけませんか?」
私を想ってしてみてください、と鮮やかな紅の乗った唇が囁いた。当然これを断られても舞雷は泣かない。これで三成が困り顔を見せればそれは可愛いものだ。 三成は舞雷からの要望を数秒黙って噛み砕いていた様子だったが、やがて体勢を崩した。
「いいだろう」 「……あら、思わぬ返答」
献身的な男と華やかな女
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