「ん?どうした三成?顔色が悪…いのは前からだが更に青白いし目の下にすごいクマが…」 「熊?熊などどこにもいない!」 「ああ、いないな。もういいよ三成」 「何なんだ貴様…この家康が」 「それワシを貶してるつもりか?いつにも増して意味が判らないなお前…」 「舞雷が……」 「舞雷?彼女がどうかしたか?」 「舞雷が愛しい…」 「………」
深々と溜息をつく、いつにも増して不健康な三成を前にして、家康は対応に困って眉を寄せた。三成は恋患いの女子みたいに、たんぽぽ片手に溜息をつき続けている。 彼が舞雷に懸想していることなど家康はおろか全ての人間が知っている。そもそも初めに「舞雷が好きだ」と言い出してからもう1年は経っていて、今更だ。
「舞雷が私の許可なくどこかへ行ってしまったんだ」 「(確かお市殿と芝居を見に行くとか言ってたな…)そ、そうか」 「頭が割れるように痛い」 「何?大丈夫か?」 「舞雷は何故私の許可なく私の傍を離れるんだ…?」 「……彼女と交際はしてないんだろう?だったら拘束する権利は・」 「いっそ両足を切り落として首輪で繋いでしまうか…」 「何を言い出すんだ三成!?冗談じゃすまないぞ、やめろ!」 「舞雷が愛しくて眠れない」 「ワシの話聞いてるか?」 「舞雷いいだろう…?これから探しに行くから見つけたらスパッと…」 「おいおいおい!!」 「……愛おしい…」 「三成三成三成」 「………」 「聞けって!」
家康は三成を放置して去ってしまいたいと思いつつ、物騒なことを真面目に言うので去れなくなった。 問題の三成はもう家康が傍で喚いていることなど完全に忘れ去り、手にしたたんぽぽを見つめている。
ぶつぶつ言っている三成をどう御せというのだろうか。家康は、やがて立ち上がり舞雷を探しに行こうとする三成をあの手この手で止めようとしたが、結局無駄だった。
返り討ちにされその場で気絶した家康は、やがて日が落ちた頃に意識を戻した。 目の前にたんぽぽが落ちている。
花の君へ
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