「どうした、お前が寝坊とは珍しい」 「……三成様…」
正確には寝坊ではない。朝はいつもと変わらない頃合いに目が覚めた。布団から出て、周期的にやってくる“あれ” の処理をし、下半身をとりまく重いだるさを抱えて横になったのだ。 三成様は、寝坊にしたら私の態度がおかしいと気づいた。本当に寝坊なら、声をかけられた時点で私は跳ね起きて謝罪を並べるだろう。そうしないのが彼にしても疑問だったらしい。寝坊でないなら体調不良だと彼は考え、答えを求める前に額に手をやり、顔色を確認し、私を診察しはじめた。
「熱はないようだが?咳も出ないし、声も普通だ」 「あの…風邪とは違うんですが、具合が悪いんです」 「……まぁ…顔色がいつもより悪いような気はするが…」 「…貧血みたいなものです、もう少し寝ていてもいいですか…?というか、今日お休みをください…」 「………」
私の仕事といえば微々たるもので、内容は文官や女中というより小間使い、いやそれ以下だった。三成様が私に甘いのをいいことに、何も無いに等しい部屋の掃除やたまのお茶出しくらいしかしていない。 だがやはり一日ゆっくりしようと思えば、主から休みの許可を貰えている方がいいに決まっている。
「貧血?」
てっきり諾否を答えると思いきや、三成様は納得いかない様子で顔をしかめた。
「あ、その…厳密には貧血ではないと思いますけど」 「私を騙すのか」 「違いますよ、ただ…男性には言いにくいことで」 「…………」 「…………」 「つまり、出血しているのか。ここから」 「うっ…そっ、そうです…」
月のものが来ていると告げるのは恥ずかしい部類に入ると私は思うのだが、三成様はどうとも思っていないのか、疎いのか、布団をめくって私の下半身を指差しながら真顔で聞いてくる。 認めて布団を戻そうとしたのだが、どういうわけか三成様は布団を奪い取り、後方へ投げた。大して飛ばなかったが手の届かない位置に行ってしまったのは確かだ。 つまり休みはくれないのだろうと解釈し、鈍い痛みを訴える下半身をさすりながら身を起こすと、何故か肩を押されて体勢は戻った。
そして、三成様が覆いかぶさってくる。
「え……?」 「見せろ」
この時期、幻聴も症状の一つだったか。
耳に届けられた信じられない言葉を噛み砕くのに非常に時間がかかった。 硬直した私を余所に、三成様は許可などいらんと言わんばかりに手を動かして、着物は捲し上げ、それはもう厳重に巻いていた布を解きにかかる。
「や、やめてください!何やってるんですか!?」 「思えばいつもこの時期はお前に触れていない」 「それはそうですよ!」 「私に秘めごとなど許さない」 「こ、これは例外でしょう…!ああ、やだ!!」 「…予想より多い出血だな……」
幻聴で済めば良かったのだが、現実はそう甘くない。 三成様は良く分からない理屈を並べて、私の制止などものともせず、瞬く間に下半身を裸に剥いてしまったのだ。
布に吸いこまれた血と膣に溢れんばかりのそれを見て、彼は感心している様子だった。これなら具合が悪いというのも頷けると呟き、あろうことか指を突っ込んでくる。
「それだけは嫌ですッ!!本当に、本当に無理です、だめ…!!」 「…裂傷している訳ではないんだろう?」 「ああ、こんなこと…」 「………私は構わんがな。血など見慣れている」
そう単純な問題ではない気がする。 妙な背徳感というか嫌悪感があり、どうしても身を任せてしまうことが出来ない。ただ必死に嫌だと訴える私を憐れんで、三成様が止まってくれるのを祈るだけだ。
しかし三成様は止まらない。血でぐちゃぐちゃになった膣に差し込んでいた指を引き抜き、あろうことかそこに顔を近づけたのだ。
「うそ、うそ…!」 「大人しくしていろ」 「み…、三成様、許してください、それは…!」 「いつもと違う匂いがするな…」 「ああうぅ…!」
恥ずかしいどころではない。羞恥のあまり死ねそうだ。 蹴り飛ばしてしまいたかったがさすがにそれは出来ず、口での訴えも意味はなく、三成様と戦うには私は弱すぎた。結局自分の羞恥心と戦うに留まり、顔を手で覆って呻きながら、恥ずかしい光景や音を消そうと試みた。だが例え目や耳がそれをとらえなくとも、消しようのない肉体的な感覚が、一番強く訴えてくるのだった。
*愛しい血液
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