※眠れない夜を貴女へリメイク前8.5話として書かせていただきました。 リメイク後と状況が前後している可能性があります。
暫く頭痛が止まらなかった。自分のことさえ判らなくなる混乱した頭で何かが暴れているようだった。 この痛みを和らげてくれるのならば、何だっていい。縋る相手が三成様でも、これから逃げられるのならば……、そんな考えにいきついてしまったのかも知れない。
逃げるように眠った後、目覚めたのは幾刻が過ぎた頃か。うっすらと、そして段々と覚める意識と共に、明確になっていくのは変わらない頭痛と胸を締め付ける悲しみだった。 視界にはすぐ傍で瞼を落とした三成様がいて、その眠りを微かな寝息が告げる。
半兵衛様に会ってからはじまった頭痛は性質が悪かった。思えば、彼の言葉によって私は退路の全てを失ったのだ、絶望が明確になって希望を食い殺したのだとしたら、この頭痛の根拠になる。 今にも血管がはち切れて死んでしまえそうだ。この苦しみから逃れることが出来るのならばそれもいい?やはり死は怖い?
「っぅ…!」
嗚呼、この頭痛は治る見込みがないことも痛みの度合いも酷いけれど、何より私の理性を突き刺してしまう。
襲ってくる鋭い痛みに全身を硬直させながら、ゆっくりと片腕が添い寝する男に伸びる。その腕の正体が私以外の誰かだったらこんなに混乱しないのに。また縋らんとしている相手が三成様でなければ疑問にも思わないのに。
地の底に音も無く沈んでいくような気持ちだった。私の体は腕だけでなく、まだ繋がれたままだった重い足枷を引きずってまで全身で彼にすり寄る。私たちの間にあいていた少しの間隔が、他でもない私自身によって狭まり、膝、胸、額を押し当て、腕で胴を抱いた。
「舞雷……?」 「…、三成様…、私……っ」 「……何だ…?」
目を覚ました三成様は、すり寄る私を強く抱き締め、私のこの態度を理解しようとする。
「どうしても、頭が痛いんです…!」
訴えると同時に強烈な痛みが襲う。短い悲鳴と共に体を唸らせれば、彼は抑え込むように抱き締める力を増した。私が寄せている額付近に三成様の唇があり、それは子供に安堵を与えるように柔らかく触れた。
「眠っても治らないのか…?私がこうして撫でていても、少しも良くならないか?」 「……はい」 「…今度こそ薬を持ってきてやる。それでも変わらなければ仕方ない…お前を他の人間になど見せたくないが、医者を呼ぶ」
そして三成様は私に回した腕をどかし、私の腕をやんわりと退ける。ああ、立つのね、此処からいなくなる。城内のどこかから薬を持って帰ってくるだけの僅かすぎる時間なのに、私はまた…、また、それを恐れた。
「舞雷」 「嫌…嗚呼、こんなの…っ…」 「愛している。お前を置いて消えるものか」 「なんで……?」 「……」
なんで、いっしょにいてほしいの?
突き詰めれば頭痛の原因はこの男だ。その筈だ。それが判っていて、どうして救いを求めるのか。自問する瞬間はこうして何度も訪れるのに、まともな答えが出たことはない。
「…わかった、近くを誰かが通ったら持ってこさせることにする。…それまで私が撫でていてやる。辛くなったら言え」
三成様は私の唇に優しすぎる口づけをして、一瞬だけ頭痛を殺した。
8.5
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