「日が落ちるのも早くなったものよなァ」 「……なんだ刑部、気味の悪いトーンで話すな」 「なに、我は感じたことを言ったまでよ。ぬしも日が落ちるのが早くなったと思うであろ?」 「まあ……」 「ああ、そういえば舞雷がまだ教室に残っていた」 「…………」 「委員会の仕事で遅くなったようだが」 「…刑部、貴様の言いたいことは理解した。ただちに口を閉ざせ。その先を言うのは許さない」 「これから一人帰路につくは、か弱い舞雷には物騒よ。此処で部活も終え後は我と帰るのみとなった誰かが、舞雷を家まで送ってやれば心象も良いが…」 「遠回しに私に点数稼ぎをしろと言っているのか!私と舞雷は家が真逆だ!」 「行けとは言わぬ、決めるのはぬしよ」 「…………」 「ただ、我はぬしと帰るのに飽いてきた。たまには一人気楽に帰りたいものよ」 「…………」 「…ああ、三成よ、やはり行けと言った方が早いか」 「なっ!?」 「行け。はやに行かねば他に先を越されるぞ」 「くっ…貴様がそこまで私を邪険に扱うというのなら、いいだろう!今日は貴様とは帰らん!」 「わかった、わかった。舞雷は教室にいる筈だ」 「誰が教室になど!」
此処でようやく、大谷は狙い通りに三成を舞雷の所へ向かわせることに成功した。彼は、いつもいじらしい舞雷の為に骨を折ったのである。
「そんなに遅くないのにもうこんなに暗いんだ…」
普段ならまだ明るい時間だが、季節的に日が落ちるのは確かに早く、もう外は真っ暗だ。 舞雷は教室でただ一人、帰り支度をしていた。カバンを持って入り口に向かう途中、退室時に電気を消すのが何となく怖いと思った。
「いいかなぁ、点けたままで…」 「何をだ」 「ひゃっ!!」
本格的な戸締りは最終的に教師の仕事だが、最終退室者は電気を消せというのが、今日の帰り際に担任教師から出た言葉だ。 スイッチに手をやり、訪れる闇に恐れをなした舞雷が躊躇っている所で、大谷にけしかけられた三成が到着したのだ。 当然いきなり声をかけられれば驚いてしまう。舞雷は悲鳴と共に壁に体をぶつけ、逆に驚いた三成は目を見開いて固まる。
「あ…三成君」 「…驚かせたな」 「ううん、ごめん…大袈裟で」 「いや……」
此処で、舞雷が何を躊躇っていたのかを三成は悟った。廊下は明るいのに教室を暗くするのが怖いのならば、街灯も少ない帰路を一人で歩くなど、彼女にとってどれだけ恐怖なのか。 護衛を申し出れば本当に良い点数稼ぎになるようなので、心の隅っこで大谷に感謝しながら、三成は代わりに電気を消してやった。
「あっ、や…やっぱり怖いね、真っ暗な教室って…」 「廊下は明るいし、隣もまだ明るいだろう」 「そうだけど…」 「…もう帰り仕度は済んだのか」 「え?うん…もう帰るだけだよ。三成君は忘れ物?電気消しちゃっていいの…?」 「……んん…」 「…?あ、あの…三成君、部活終わったよね?」 「ああ…」 「……よかったら、一緒に…って…帰る方向逆なんだっけ?ごめん…忘れて!またね!」 「帰ってやる」 「へ?」 「貴様の家の方角に用がある。ついでに並んで歩いてやってもいいと言っている」 「……本当?」 「私は嘘は言わない」 「あ、ありがとう…。正直ね、怖かったんだ…真っ暗なんだもん」
厳密に言うと「ついでに」というのは嘘だが。 心から嬉しかったらしい舞雷は、溶けるように柔らかく笑って三成に腕をからめた。勿論彼女は純粋な「好き」に素直でやったことだが、三成は「好き」に反抗しがちだ。思わず振りほどきそうになるのを必死でこらえ、今日ばかりは闇に乗じて、手を繋いで帰ることにした。
帰路
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