「ま、待って……」

静かだが焦燥を感じさせる声が静寂に染みるように零れ、その声で制止された私はとりあえず止まってやった。
望み通り私が静止したことに安堵し、舞雷は、ほっと一息までついて胸を撫で下ろす。その様が気に食わなくて噛みつくように接吻すると、色気のないくぐもった音を喉で発し、力なく私の背を叩き始めた。

「っはぁ…!」
「何だ?」
「何・って……、三成さんはお兄ちゃんの友達…」
「家康とお前の関係が兄妹だろうとそうでなかろうと、私にとって心底どうでもいいことだ。それに友人などではない。仮に友人だとしても止まってやる理由にならない」
「…………」

格好など気にせず舌を絡めた接吻だった。おかげで離れれば互いの唾液が糸を引き、妙に官能的にそれが舞雷の口元を汚す。
まだ何かを“信じられない”と訴える双眸で私を捉えながら、舞雷は手の甲で口元をそっと拭った。

「お兄ちゃんは…?」
「家康のことなど知るか」
「一緒に出かけてて…あれ…?」
「……記憶がないのか?」

問いかけておいてなんだが、舞雷が覚えていないのも無理はない。此処は大阪城の地下だが、家康と外出していたところを急襲して拉致してきた。瞬時に意識を飛ばした舞雷が経緯を覚えている筈も無い。ついでに家康は撒いてきた。

「……と、友達でしょ…?」
「またそれを聞くか」

何となく自らの置かれている状況がまずいものだとは感づいているらしい。が、それも当然と言ってしまえば当然のことだ。気づけば目の前に兄の友人(と思い込んでいる男)、辺りを見回せば暗い地下、疑問を投げることさえ間に合わずのしかかられ、半裸にされ、尚何度も接吻されれば。これが正常であると誰が思いこめると言うんだ?

「私はお前を欲しいと思った。その為に拉致することを考えた。拉致するだけでは意味がない、その後はこうして監禁し、求めるままに求めることに決めた」
「………」

言葉こそ発さなかったが、舞雷はぎょっとして目を見開いた。今まで家康越しの挨拶や礼儀程度の付き合いしかなかったおかげで、舞雷は私の好意を受け入れるのが易くないらしい。

……嗚呼、だが何がお前を不安がらせるものか。これ程愛される女というのはお前以外にそういまい。私が全霊で愛すれば、お前は必ず幸せになる。

「もう家康のことは忘れろ。お前の家族は私だけでいい。勿論兄としてなど慕うな、夫として見ろ。そして愛せ」
「……三成さ、ん…?あっ、え…!?」

既に半裸だった舞雷の恥部を曝してしまうことなど容易い。
返す言葉を考えあぐね固まっていたお陰で、舞雷はいとも簡単に両足をすくわれ、私の手ではしたなく大仰に股を開くはめになった。最早腰にまとまってぐしゃぐしゃになっている着物など、痴態を隠す任など負えない。
部屋の明度が低い所為であまりよく観察は出来ないが、目の前にずっと触れたかった舞雷の女の口がある。そう思うだけで心の臓が病に侵されたかのように暴れ出し、下半身の熱も上げていく。

「まっ、待って、待って!こんなのおかしいよっ、ヤ…ヤダ!」
「お前は受け身でいろ。つまり、大人しく喘いでいろ」
「あっ…な、に…?何…!?」

本来じっくり慣らしてやるべきなのは判っている。判っているが、本能を抑え込む力はなかった。ただ恥部を曝しただけで完全に勃起した陰茎を挿入してしまいたい。
指先で柔らかい陰唇や股の内側を撫でまわし、少し濡れてきたところで亀頭をあてた。これが何かを認めたくない様子で舞雷が何か言っているが、聞こえないふりをする。

「っやあぁっ!あ、っぐ…や・あ、入っ…!」
「狭いがなんとか入ったな…。手を出せ」
「あっぅぅ…!やだ…お兄ちゃ……!」

深く銜え込んだ接合部を触らせると、舞雷は大きく首を振って家康を呼ぶ。それが兄妹の慕情だと判ってはいる。理解しているつもりだったが、受け入れがたいのは仕方なかった。求められているのが私ではなく家康、そう思えた瞬間、愛しいだけだった舞雷が憎い存在に思えて来るから不思議だ。……ただし、勿論殺したりなどしない。ただ優しく抱いてやるのを諦め、その口で私を求めるよう指示するだけだ。

「言え、愛しているのは私だけだと…!」
「はっぁ…!ああっ…神様……」

兄の次は神か。


*深淵