「な、なんだそれは…官兵衛!」 「うるせー!小生の娘だよ!!」 「かっ、か、か…!!」 「うわ…どうしたよ三成?」 「…………」 「可愛い…」 「は!?気持ち悪!!」
久々の面会でどんないざこざがあるものかと刑部は心配だったが、官兵衛が連れていた幼い女の子のおかげでそれはなかった。 が、果たしてこの結果は良かったのか、否か。予想通りに互いが食ってかかって、口論とたまに刀が飛び交うくらいの方が、刑部にとっては御しやすかったのかも知れない。何せ、現に官兵衛の娘と言われた女の子を前に見るからに興奮している三成を相手に、一言の制御も投げてやれない。
「お、おいにじり寄ってくるな!娘を可愛いと言われて背筋がゾッとしたのはお前さんがはじめてだぞ!?」 「もっと良く見せろ官兵べ…いや、官兵衛さん、見せてくれ」 「ますます気持ち悪!やなこった!!というか…お前、全然女がつかないと思ったら幼女趣味だったのか!!」 「…何を言っている?」 「え゛!?」
だってそうだろ、と反論しつつも、にじり寄る三成から距離をとる官兵衛。 その足元に存在感十分に転がっている鉄球に乗っかっているのが件の娘。
「私は幼女趣味ということはない。断じて違う。……ん?妙に血の匂いが鼻につくな…その娘、もしや怪我を…」 「そりゃ自分の鼻血だ阿呆!!」 「何!」
官兵衛の背後には建物が現れて、もうこれ以上後ずさることが出来ない。 おかげで距離が詰まったと思えば、三成の鼻から赤い血が無自覚のうちに垂れて来る。指摘されて手をやり、はじめて指先に乗った鼻血を見とめると、刑部が横から「拭きなさい」と言わんばかりに布を寄越す。
「…しかし、官兵衛の娘にしては美しすぎるんじゃないのか」 「失礼なこと云うんじゃねぇ!正真正銘小生の娘だ!てめーのおかげで一緒に穴倉生活だったからな、久しぶりに外に出られて舞雷も喜んでんだよ!邪魔しやがって…!」 「私は知らん…娘も一緒だったのか」 「だから近寄るな変態!!」 「黙れ、貴様の指図はうけん!それと、その娘を寄越せ」 「おい刑部止めろ―――!!」 「無理よ」
刑部は刑部なりに混乱していたのだ。 確かに官兵衛が言ったとおり、女がつかないと思えば幼女趣味だったのかと思ったり。しかし記憶を掘り起こせど、一般的に可愛いと言える、彼女くらいの年の子供を見ても今まで何ともなかった筈だ。それがどうして急に…と考えれば、幼女趣味だったかどうかはおいておくとして…一目惚れなのだろう、これは。
「……まだ小さいがあと10年もすれば子も産める年になるであろ…」 「!?刑部貴様、何言ってんの!?」 「よし。三成、我が赦す。あれを娶ってしまえ」 「刑部がいいと言えば安心だな。そうする」 「おいおいおいおいおい!!とめて!誰かあの変態と浮いてる変なのとめて!!舞雷ちゃん!!」 「舞雷というのか。よし、私の所へ来ればアメをやるぞ」 「あめちゃん」 「違うだろ!舞雷、やだって言うんだ、やだって!!」 「あめちゃん!」 「よし、来い」 「よしよし、ぬしは父に似ず素直で可愛いなァ。我からも飴をやろう」 「あめちゃん〜」 「舞雷――――!!」
父の制止も虚しく、飴ちゃんにつられた舞雷はひょこひょこと三成達の方へ歩いていく。
「よく見ろ舞雷、どう見ても子供が見ただけで怯える見た目だろその二人!!特に刑部!!」 「喉に詰まらせるなよ」 「うん。おにーちゃ、ありがと」 「ブッ!」 「おお、ちゃんと礼が言えるとは。ますますよい子だ、よい子」 「鼻血噴いてんじゃねーか!!三成貴様、よくも小生の可愛い一人娘を破廉恥な目で見やがって!!」 「うまいか舞雷…」 「あまい」 「本当に可愛いものだな、ヒヒッ」 「何かうちの娘肝が据わってるなチクショー!!」
いくら三成が鼻血を出そうと、刑部が不敵に笑おうと、舞雷は全く怯える様子を見せなかった。 せめて怖がってくれれば二人も引き下がるのだろうに、と官兵衛は涙をこぼす。そして何故かそのまま、舞雷は大阪城へ連れていかれることになった。
あめちゃん
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