人に好かれて悪い気がする人間はそうもいないと舞雷は思う。かく言う自分が現に悪い気はしていないし、それどころか優越感に似た高揚した気分を味わっている。
彼女は調子に乗って、自分に好意を寄せている男――西軍総大将石田三成に対して、無理難題を押し付けることが最近のお気に入りになった。

「私を愛しているというなら、その証に、隻眼組み…別名東西兄貴の眼帯を持ってきて」
「よし!」

舞雷にしたら悪ふざけだが、三成は真剣だった。
口で交渉するのは彼にしたら無理だろうし、こんなお遊びにわざわざ大谷が知恵をやる筈も無く、恐らく真っ向から眼帯を強奪してきたのであろう三成は、ぼろぼろになって帰って来た。手には当然、舞雷が所望した眼帯がふたつ。

「えっと…じゃあ次は…」
「まだ私の愛が伝わらないのか、舞雷!」
「ん?ああ…うん、まだちょっとね」
「…なら信じさせるまで。お前の望むことならなんでもしてやる、さあ望みを言え!」
「……うーん…じゃあ、毛利さんの兜」
「待っていろ!」

だっと飛び出して行った三成を舞雷は満足そうに見つめていた。その傍らには大谷が浮いていた。
彼は心中、いくらか三成を憐れに思ったものの、自分が何を言っても止まらないことは察していた。だからせめて、彼を操っている舞雷を御そうと口を開く。

「舞雷よ、あまりあれを苛めてやるな」
「え?だめ?」
「…本当に毛利の兜が欲しいのか?今まで三成に集めさせた品々は、全て手付かずで放置しているであろ」
「うん、需要ないしね。盗品と言えば盗品だし」
「……無意味なことを成し遂げてぼろ雑巾のようになって帰ってくる三成を見て、ぬしは何とも思わぬのか?」
「愛されてるって実感するよ。とても幸せな気分」
「…それなら、そろそろ辞めてやれ。見ていて憐れよ」
「ははは」

舞雷は大谷の言うことを痛いほどわかっていた。わかっていたが、辞められない自分がいた。
誤魔化すように軽快に笑って、舞雷は大谷の傍から逃げた。大谷は、失敗したかと溜息をつく。

暫くして、ところどころ焼け焦げた三成が帰ってくる。


愛を掲げて疾駆する