あれ?どうしてこうなったの?
ただ普通に帰宅しただけだったように思う。いつも通りにカバンから鍵を出して、ドアを開けて、玄関で靴を脱いで……。それからがおかしかった?その前はどうだっただろう?いや、恋人未満の男とデートしてきたくらいだ。

「んっぐ…!」
「はぁっ……」

急に何かに引き寄せられたと思ったら(というか、靴を脱ぐ直前に「ただいま」を言った弟が目の前にいたんだから彼しかいない)、次の瞬間唇が合わさっていた。さっきこそばゆくやってきたキスなんかとは全く違う、ねちっこくて深くて…そう、嫉妬を孕んだような………嫉妬?

「ッ、なに…どうしたの…?」
「あの男とどこへ行った?もう寝たのか?」
「……三成?」

見れば見るほど、私の身体を捉えて離さないこの男は…実弟だった。
それが、デート帰りの姉に嫉妬で濃厚なキスと、責めるような目…というのはいかがなものか。しかし弟は冗談が言えるタイプじゃない。それに、前々から重度のシスコンじみていることは判っていた。

「答えろ!」
「ッ、…大声出さないで。どこって、その辺で買い物して、ご飯食べただけだよ…。それに、セックスなんかしてないから」
「…………」
「…本当だってば…」

弟の変化を分析しているうち、彼は焦れて切れた。三成は昔から怒りっぽいし、理性がきかないところがあるから、姉としても正直怖ろしい。壁をぶち抜く勢いで拳を叩きつける弟を前に、姉の私は情けなくも震えた。

「恋人じゃないんだから。まだ…その前の段階なんだって」
「……いいだろ、姉さん。あんな男が何をしてくれるって…?」
「…何?」
「利益もないのに、あんな男と過ごす必要があるのか?いなくていいだろ、私がいるんだから…」
「………どうしたの、ほんとに…」
「…私だって貴女を養ってやれるし、守ってもやれる。子供だってつくれる。どの男より姉さんを知ってるし、愛している」
「………」

滑稽なほどに私の眉は歪んだ。目の前の弟が何を言い出したのか本気でわからなかったからだ。
………わからない?いや、本当はわかる。少しずつ片鱗は見えていたのだから。三成のシスターコンプレックスが異常な域にきているってことは、頭の隅で確かに予想していたんだから。

さっきまで激昂していたと思った三成は、悲しそうな、縋るような顔で目を細めた。急に落ち着きを失い、そわそわしはじめ、私の身体に回していた手でしきりに背中や腕を撫でてくる。

「ねえさ、ん…」
「…私にどうしろって言うの…?」

見ていて可愛そうな程に三成は混乱しているように見えた。このまま彼を突き放して逃げるのは可能に思えたけれど、それをしてしまったら、この弟は完全に壊れてしまうと判っていた。

「いやだ、姉さんっ、風呂…」
「え…?」
「…男の臭いがする…ッ」

髪や首筋に顔を埋めて鼻をすんすんいわせていた三成は、苛立ちと悲しみを喉の奥底から吐き出した。耳元で声を聞いた私はぞっとした。
出来るだけ感情を逆撫でしないようにしなければ。弟が壊れてしまう。私も死んでしまうかも知れない。だから慎重に、頷いて風呂場へ向かう。

……当然のように浴室までついてきた弟を前に、この先私たち姉弟は…どうなってしまうのか、不安になった。


私たちは、