三成はひとり寂しく縁側に座っていた。晴れた良い日差しが注いでいたが、彼の周りは心なしかどんよりしている。おかげで誰も近づかなかったのだが、同盟の関係で大阪城を訪れていた真田幸村だけは違った。

「石田殿は…なにやら塞ぎ込んでいるご様子…!某、力にならねば!!」
「……止めといた方がいいと思うけどねー、俺様は」
「何を言うか佐助ぇえ!同盟相手の石田殿が落ち込んでおられるのだぞ!」
「…別に止めないよ、ハイ、いってらっしゃ〜い」

ひら、と手を振って、佐助は少し離れたところで二人を見守ることにした。

「石田殿!!」
「………」
「石田三成殿!!」
「………」
「いし・」
「黙れもう一度言えばその喉ごと首を斬り落とす」
「ぐ……申し訳ない」

幸村が近寄ってきたことに気づいていた三成だったが、面倒なので無視しようと思った。反応がなければ諦めて帰るだろう、その方が楽だ、そう思った。しかし相手はあの真田幸村、一言目から酷い声量で、しかも耳元で言うものだから、ろくに辛抱できずに三成のほうが折れてしまった。
悩み相談に乗ってくれようとしている幸村に妙な思惑などないことは重々承知だ。しかし、かといって相談する相手として相応しいかを考えると…。

「なんでもないから消えろ」
「何を言われるか!!某石田殿の憂いを取り除くべく全力で協力いたす!」
「……別にいい」
「遠慮なされるな!!」
「遠慮ではない、必要ない。たいしたことでもない」
「良いから相談してくだされ!!」
「………」
「さあ!!」

こうなった幸村がとまらないことは、同盟してまだ期も短いが三成にはわかっている。
後方を見やれば彼の保護者が安全圏で見守っているのを見つけたので、三成は藁にも縋るような気持ちで佐助を睨んだ。しかし佐助は両手を上げる。

「……聞いても無駄だぞ」
「遠慮などせず!」
「………舞雷が懐妊した」
「……はぇ?」
「舞雷が懐妊したそうだ。私は今後己にかせられる父親としての重圧やら、名前をどうするかやら、子が産まれても舞雷と仲睦まじくできるかが不安なだけで別に深い問題は…」
「………」
「…真田?」

折れた三成は総て話した。しかしさっきまで口を開けば煩かった幸村が、石になってしまったかのように止まってしまったではないか。
怪訝そうに眉を寄せた三成を前に、幸村は口を数度ぱくぱくさせる。そして、

「破廉恥…?」
「……」

珍しくも静かにこう言った。

「……いや、別に破廉恥ではない」
「そ、そうでござるか」
「(旦那!成長したね、旦那!!)」

なにやら向こうの方で忍が一人感激の涙を流している。

「では石田殿、これくらいの枝を用意せねば」
「枝だと?」
「コウノトリが着陸するのに、このくらいがちょうど良いと思うでござる」
「………(熱があるのか私は…)」

三成は額を押さえたが当然平熱である。幸村は三成が耳を疑っていることなど気づきもしない。本気で赤ん坊はコウノトリが運んでくると信じていた。

「…鳥の止まり木の話など聞きたくもない…」
「な!?何を言うか石田殿!!」
「おい忍」
「!!あ、な、何?」
「性教育のひとつもしておけ」
「……ハイ…」

いつの間にか近くに立っていた三成に驚いた佐助は、成長したと思っていた幸村を見つめて絶望した。まだコウノトリがどうのうこうの言っていたからだ。

※怒りで青筋を浮かべた三成はおかげで立ち直りました。


あかちゃんどこから