これは恐らく、私が弁当に入っていたいなり寿司を落としたのが原因だ。ただ落としてしまっただけならいざ知らず、不作法にも弁当を食いながら走っていた私はそれを踏み潰した。そう、なんかよく判らない社の前で。

あれ以降、狐の妖怪が私に付き纏うようになった。
しかもその妖怪、何とも色っぽい青年なので、今では“怖い”を忘れて少し惚けてしまう自分がいる(が、相手は妖怪だぞ私!目を覚ませ!…ということで、全力で彼を拒む私)。

「こ、来ないでよ!これから下着売り場行くぞ、いいのか!!」
「心配するな舞雷、凡人の目に私は映らない。それに私はお前の傍にいられればあとはどうでもいいから恥ずかしくもないぞ!」
「恥じろよ!!あとこうして大型ショッピングモールを練り歩きつつ私以外の誰の目にもとまらないアナタに大声で突っ込みを入れている自分に集まる視線が死ぬほど恥ずかしい!!」
「私はお前と“でえと”出来て嬉しい。よし、下着は私が選んでやる」
「勘弁してくださいお狐さま!地下の食品売り場であぶらあげ買ってあげるから。ね?浄化して」
「……幽霊じゃないんだぞ、浄化などしてたまるか。それに私は一生舞雷に憑くと決めたんだ」
「の、呪いでしょ?!お稲荷を踏み潰した呪いなんでしょ!?」
「…それは単なる口実で、そもそも私はお前が愛しいと何度言えば…」
「それに私犬アレルギーだし!」
「私は狐だ」

こんなことで揉めている間にも周りの人間の痛々しい視線が私に集まっている。が、肝心のこの狐…、三成は私の恥のことなどおかまいなし。いつも嫌だと言ってもついてくる癖に、このデート(というかストーキング)を大変楽しんでいるらしく、デカイふさふさの尻尾を振って喜んでいた。

「……もういい。帰る」
「ん?下着はいらんのか」
「この痛々しい好奇の目を気にせず下着選びなんて無理…」
「あぶらあげ買ってくれ」
「………近所のスーパーでね…」

げんなりした私が踵を返すと、三成は確かに憑いているという感じに、体の側面をくっつけて、ふさふさの尻尾を巻き付けて来る。





近所のスーパーで一番安いあぶらあげを買ってやり家に帰ると、部屋に到着した途端体を強い力で引かれた。
驚きと、塞がれた唇に困惑して暴れようとしたけれど、巻き付いている尻尾の所為でろくに身動きもとれない。

「んっ、三成ッ…」
「ん………」

抱き締められた状態で、尻尾の先の柔らかい毛が頬をくすぐってきて、非常にくすぐったかった。

嗚呼、そうあれはお行儀悪くも弁当を食いながら走っていた時。弁当に入っていたいなり寿司を落っことし、踏み潰したのがいけなかった。おかげで私はこの妖怪に出逢い、そして道徳を無視して恋をしている。そう、恋を。


おきつねさま!