最近、女に興味のなさそうな三成の元へ嫁いできた舞雷という女性のおかげで、大阪城は穏やかな空気に満たされていた。というのも、舞雷の柔らかく笑顔を絶やさない性格のおかげで、三成の怒りや大谷の気苦労が上手く殺がれているからである。

「しかし平和呆けしては困る…」
「平和な方が良いですよ、三成様」
「……ああ、そうだが…」
「もう天下争いなど、どうかお止めくださいまし…」
「………」

舞雷はそっと三成に寄り添った。元々戦を好かない彼女を前に、返り血を浴びる己をどう隠したものかと三成は考える。考えるが、いつも答えは出てこない。

頷いてやることが出来ずに三成は眉を寄せた。かといって否定するのも気が引けて、無言で肩を抱き寄せる。

「そう、忍びの方からお団子いただいたんですよ。お茶を淹れますから」
「いや、いい…そんなもの女中にやらせろ」
「このくらい私が…」
「お前はもう私の妻だ、いいから慣れろ。お前は何もするな。強いて言うなら…私の傍にいろ」
「……わかりました」

舞雷はふんわり苦笑した。彼女は元々身分はそれなりの姫であるが、珍しく奥床しい。ただ茶のひとつも用意させるのが悪いと思っている。
三成は近くを通りかかった女中に用を言いつけると、舞雷の柔らかな髪を撫でる。白く華奢な女らしい手が重ねられると、胸の奥が熱くなった。

やがて茶と団子が届くと、舞雷は女中を相手に恭しく頭を下げる。その様子を見て女中も勿論慌てて頭を下げ返したが、もう三成は止めなかった。これが彼女の魅力のひとつなのだから。

「三成様は、お団子お好きでした?」
「……特に考えたこともなかったな」
「そうですか。私は好きですよ」
「…なら私も好きだ」
「ふふっ」

踊るような笑声を耳にして、三成もらしからず頬を緩ませた。


綿雲