お父様、お母様、私は今とんでもないことになっております。何がって、私のいる場所がまず問題なのです。此処は海です。いえ、海に落ちたのではありません。しかし厳密に言うと船の上でもないのです。陸の見えない広い水平線…そこに二隻の大きな船…、その間にいるのです。そう、間に。船は二隻。私は船の上でも海の中でもありません。ええ、ええ。その船と船の間の空中にいるのですよ!!

「ならぬ!手を離さぬか石田!!」
「貴様が離せ毛利!!舞雷は私の女だ!!」
「横からしゃしゃり出てきたかと思えばふざけたことを…!此処は我の海ぞ!舞雷も我のものよ!!」
「どうでもいいからどちらか引き上げてくださいません?!」

そう、お父様お母様、どういう訳か私の所有権を争い二隻の船の持ち主である毛利元就と石田三成が、甲板に乗り出して私の両腕を掴んでいるのです。
元々私は長曾我部さんと悠々とした船旅を楽しんでいたのですが、突如現れた毛利軍のこの一隻の船にいきなり大砲をブチ当てられ、長曾我部さんと子分の皆さまは、毛利元就の背後で倒れております。はい、船は沈んでしまったものの皆引き上げては貰えました。そうしたら横から凄い勢いで石田軍の船が突っ込んできて、毛利軍の船に衝突したのです。衝撃で吹き飛んだ私は二人に腕を掴まれて、こうなってしまった、と。海に落ちた方がマシです。

「ほれ離さぬか石田。舞雷が離せと言っている」
「貴様に言ったんだろう。私は離さない」
「長曾我部の船員は我の船に引き上げた。つまり舞雷もこちらにいるのが定石…」
「長曾我部の船員を乗せているなら定員に達しただろう。案ずるな、私の船は舞雷を乗せる余裕がある」
「くだらん。我の船がこれ如きで定員に達しただと?必要とあらば長曾我部共など海に放り出すわ」
「だから腕が痛いんですってば!!」
「む。すまぬな」
「すまない舞雷…」
「と言ってどうして引っ張るんですか体が裂けますよ痛たたたた!!」

ああ、お父様お母様。舞雷は双子になってしまいそうです。

そもそもこの二人、逞しい体躯でもないのによくも片腕で私を支えていられるものだと感心してしまいます。それより握り締められている私の両腕の先が青白いのは気のせいですか?血が、止まっているのではないですか?

「…石田、とりあえず舞雷の身が心配だ。どちらが引き取るかは後にして、引き上げてやらぬか」
「同感だ。では手を離せ」
「愚図が。貴様が離せ」
「ヒヒッ、毛利よ…ぬしが離せ」
「貴様も横からしゃしゃり出るか、大谷!」
「もっと言え刑部」
「二対一とは愚劣な…!」
「ん…?俺ァ一体…」
「!長曾我部、貴様言い返せ!」
「は?」

ここからだとよく見えませんが石田三成側の船から刑部大谷が現れました。いいから引き上げて欲しいのですがややこしいことになりそうです、嗚呼、お父様、お母様……舞雷はどうしたらよいのですか…腕が痛いです…。
意識を戻したらしい長曾我部さんが私を助けてくれることを期待するものの、冷静さを失ってきた智将が何か言っています。起きたばかりの長曾我部さんは近寄ってきて、自分たちを砲撃した男の横に普通に立っているではないですか。

「お?!舞雷どうしたんだよ!」
「た、助け・」
「石田の船が衝突してきたおかげで吹き飛んだ所を我が助けたものの石田まで腕を伸ばしこの有様よ。攫って行って大谷に不幸にされる前に我が助けてやらねばならぬ協力せよ」
「あ…?早口過ぎていまいち判んねえけど…とにかく石田が悪いのか?」
「やれ三成、あれが加われば力では勝てぬなァ」
「弱気になるな刑部!私は舞雷が欲しいんだ!」
「あいわかった」
「!長曾我部、大谷を倒せ!!」
「舞雷を引き上げりゃいいンだろ?任せ・ブッ!!」
「いいぞ刑部もっとやれ!」
「非力なわれは数珠で相手を叩くくらいしか出来ぬ…ヒヒッ」
「あんな飛んでくる玉くらい避けぬか無能めが!それに我は引き上げろとは言っておらぬ、倒せと言ったのだ!」
「痛ェ…クソッ、大体なんだよこの状況は!」
「だから舞雷を救うためには我が引き上げねばならぬと…、まずい!我の盾となれ長曾我部!あの玉を代わりに受けよ!!」
「何でだよ!」
「舞雷が落ちるであろう!!」
「とりあえず石田の船に乗せちまえばいいじゃね・痛ッ!!」
「ほれほれ、踊れ踊れ」
「早く毛利を倒せ刑部!」
「小癪な…!!」

……一体何なのでしょうか、お父様お母様…もう嫌です。舞雷はもう海に落ちた方が良いのではないですか?それかどちらかを指名すれば良いのですか?大人しく両腕がもぎ取れてしまうのを待った方がいいというのですか…?!

私の頭上で玉が飛び交っています。


青白くなっていく