いくつか年下の妻を迎えた三成の反応は、長く友人をやってきた大谷からしても意外な反応だった。そもそも、婚姻の話を三成から聞いた時、大谷には一切、彼が惚れた女がいるとか、敬愛する上司から縁談の話をまわされているとか、そういった話は耳に入ってこなかったのだ。

大谷は他人のシアワセを祝うことのできない性質である。
が、友人である三成だけは別だった。だから、彼の目の前に広がっている光景は温かく見守れるものだった。……のだが、いくばくか恥じらう妻の手を引いて庭に出る友人の姿は、彼にとって筆舌に尽くしがたい、こそばゆい何かを想わせた。

「(…たかが、小石程度……。あれでは鼠も転ばぬであろ…)」

大谷の視界で、三成は庭の小石を慌てて舞雷の足元から蹴散らした。すぐさま、美しく整えられた庭の枝木を彼女の頬から遠ざけ、てんとう虫を弾き飛ばし、眩い光を手の平で翳らせる。
まるで重病人の看病を見ているようで、大谷はらしからぬ友人の在り様を嘆く意味と、妻に寄せる好意の方向を正してやろうとする節介を混じらせてため息を吐いた。

「三成様…わたし、大丈夫です。お日様は好きですよ。このくらいなら眩しくありません」
「いや、お前の白く美しい肌が焦げるのは気に食わん。私の好きなようにさせろ」
「……わかりました」

舞雷は大谷が内心節介を焼いたように、三成のやり方を些か心苦しく思っていた。だから、三成の過保護を何とか振り切ろうと思うのだが、どうしても出来なかった。
三成の方は、ただ単純に、愛しい妻を思うまま護りたい一心だった。彼女が躓くと思えば小石も蹴散らすし、庭師の技が光る枝木も、彼女の頬を傷つけると思えば容易く折ってしまえる。彼女が怖がると思えばてんとう虫もどこぞへ弾き飛ばすし、彼女の肌や目が痛むと思えば自らひさしになる。

大谷は思った。漠然とだ。
――三成には幸せになってもらいたい。


彼は輿に乗ったまま二人に近づくと、三成が集中して己の言葉を聞くように、舞雷を己の影に入れた。

「三成よ、われはその奥方の飼い方を健全とは思えぬ」
「刑部…私に意見するのか?私の舞雷の愛し方に間違いなどあるものか」
「いや、在りも大在りよ。ぬしが過保護にする故、奥方に自我が感じられぬのよ。ぬしがいるとまともに歩けず、庭の景観も愉しめぬ。更には陽光と共に意志まで遮られる。それで喜ぶ女がいると、ぬしはそう思うか?」
「……私の愛が窮屈だ、と…そう云うのか、刑部」
「奥方も同意見であろ。ぬしは盲目すぎるのだ」

大谷が現れたことで委縮していた舞雷は、彼が自分の為に発言していることを、信じられない半面嬉しく思った。咎めれば反発するであろう三成も、大谷の言葉だけは苦々しくも聞いている。

「私を、料簡の狭い人間だと?」
「さァ…、他はどうであろ。何にせよ、奥方に対してはそう言える」
「……私にどうしろと?」
「なに、ぬしがその奥方の鬱蒼な顔を見ていて飽きぬというなら変わらずにいればいい。真に妻を幸福にと願うなら、われに退けと言え」
「………」

三成は黙った。彼は当然、舞雷の幸福を願っている。彼にとって大谷の言葉は信頼のおけることだった。大谷の助言通り、大谷に退けと言えば、舞雷には燦々と眩い陽光が降るだろう。
彼女が、望んだ通りに。

「…刑部、そこを退け」
「あいわかった」

大谷は密かに口元をほころばせ、身を翻す。
影を失った舞雷は陽だまりを浴び、その熱に負けじと温かく笑った。


陽だまりに笑う