最近の私の口癖は『金吾さん、うらやましいぃ…!!』(歯を食いしばって)。

私の望みはもちろん、三成さまにブッ叩いて貰うこと。もしくは罵って貰うこと。とにかく色んな意味で酷いことをされたい。その為なら努力は惜しまない。犠牲も厭わない(誰が巻き込まれようと知ったことじゃない!)。

しかしどうだろう、戦場で腕をふるえなかった兵卒が三成さまの目に止まり、酷いお叱りを受けていたのを私は何度か目にしている。怒鳴られることは勿論のこと、蹴られてみたり、斬られてみたり、突き放されてみたり……。なんとまぁ羨ましいことこの上なかった。だから私は故意にやった。故意に、三成さまの目に留まるような失態を繰り返した。そして戦後、三成さまは私の前にゆらりとやって来て、胸を高鳴らせる私を威圧的に見降ろした直後、期待が膨らみ過ぎて息を荒げていた私にこう云った。

『舞雷、もう五度目はない』

その前は四度目はないと言われ、その前は三度目はないと言われた(当然その前は、二度目はないと)。恐らく三成さまは私が故意に失態を繰り返していることを察している筈だった。だからこそ、さっさと叱って欲しかったのに、どういうわけか私ばかり異常なほどに免除される。

今度こそ"ない"筈の五度目の失態を犯してやろうと意気込んで戦場入りした私は、目論見通り酷過ぎる活躍を見せた。私のこの行いの所為で多くの戦友が無駄に怪我を増やしたが、それは大目に見て欲しい。
そんなことより、五度目だ。六度目なんて本当にいらない。そもそもあの短気な三成さまの仏の顔が四つ以上あったことに驚きなのに。

「す、すみませんでした…っ!」

額をごりごりと地面に擦りつけながら、またゆらりと立つ三成さまに謝罪した(もちろん赦して欲しくなどない)。三成さまは相変わらず、此処までは順調に殺気立っている。しかしこの後が問題なのだ。

「舞雷…貴様はいい加減、戦場で馬鹿な真似はやめろ。これ以上私の邪魔をするなら本当に容赦はしない」
「…えっ、」
「何だその反応は?反省したのか」
「……三成さま、えっ!?」
「…何が言いたい……!」

きっと察してくれていると思っていたのだけれど。

三成さまは意外にも私の思惑を察していなかった。確かにはっきりとは申し出ていないものの、あからさまではあったのに。しかしこれで判った。もう言ってしまう他ないのだと。余計な画策などせず、ただ請えばいいのだと。

「三成さま!私を罰してください、その為に失敗してるんです!!」
「は……?」
「金吾さんにしていたように、私をその禍々しい刀でぶって下さい!私は鍋を背負っていませんが全然大丈夫ですから!むしろ、あってはいけない!」
「…………」
「もうこの頃金吾さんを羨むばかりに私が倒しに行ってしまいそうな勢いなんです…!もう、舞雷には耐えられませんッ!お願いですから叩いて下さい!殴って下さい!見下して下さい…ッ!!それか、全身の痺れる罵詈雑言を浴びせて下さい……!」

頬を染めて私は強請った。いじらしく。
三成さまは不可解そうに顔を歪めて暫く考え込んだ。戦後の所為で返り血を浴びた凶王の姿があまりにも煌々として美しい。いびられたくていびられたくて、たまらない。

想像だけで軽く震える私を長い間見守った後、三成さまは処遇を決めた。握っていた刀を更に強く握りしめ、それを振りかざすと、私のすぐ目の前の地面を叩いた(この渇いた音だけでぞくぞくする…!)。

「お前の望みは理解した。……可愛い間抜けだと思っていたが、変態だったのか」
「じゃ、じゃあ……?」
「私はお前をひいきして可愛がったが適切ではなかったようだ。……まぁ…、お前をいたぶって善がらせるのも、悪くないかも知れんな」
「………!!」

次の瞬間、三成さまは実に悪い顔をして、やっと掴んだ幸福を噛みしめんとする私に向かって刀を振り上げた。


歓びが降ってくる!