「ど、どうか赦してください…っ。私には、お二人が欲するような情報なんてないんです…っ!」

石田三成と毛利元就の両名に囚われた舞雷は、目隠し布を涙で濡らしながら懸命に訴えた。
彼女は、自分が拉致された理由を二人から知らされていなかった。二人はただ彼女を欲し、まず互いが奪い合う前に、元々の所有者である伊達の元から攫ったのだ。

舞雷は敵国に当たる彼らが自分を拉致したことを、なんらかの情報を得る為だろうと考えた。だから、本当に何も知らないから、震える声を絞り出して無知を訴える。

「私はただのしがない女中です…。政宗様や国の情報なんて、本当に何も……、」
「伊達のことなど眼中にない。我が真に欲するのは、貴様のことだ」
「……え…」

ようやく毛利が凛とした声で目的を呈すると、舞雷は返す言葉を失った。
毛利はただそれだけ云うと、先は続けず、濡れた目隠しの奥で瞳を揺らす舞雷の姿を静かに見つめた。その隣には、未だ傍観を決めている三成がいる。

「私、が…どうして、貴方は…?」

混乱しきってしまった舞雷は、掠れる声で納得のいく説明を求めた。三成はまだ黙って彼女を射抜くように凝視するだけだったが、毛利は一拍置き、彼の代わりに口を開いた。

「貴様がただの女中であることはすぐ判った。……だが、伊達の元にいた目立たぬ花を見初めたのは偶然ではない。我らの間には見えぬ何かがあったのだ。結ばれるべくして出逢ったと、そうは思わぬか?」

毛利の言葉で舞雷は少しだけ、状況を理解しはじめていた。しかしここで引っ掛かるのは、自分を拉致したのが一人ではないことだった。
未だ一言も口をきかない三成の存在は、視界を奪われても彼女には感じ取れた。だからこそ、自分を見初めて攫ったという毛利はともかく、彼の存在は不可解だった。

舞雷は渇いた喉で、もう一度だけ問いかけた。

「あの…、ならば、石田様はなぜ、そこに……?」
「………」

毛利は答えなかった。偶然見初めた女を同時に見初めた男だなどと、そのような不愉快なことをわざわざ口にするのは嫌気が差した。

三成は黙ったまま舞雷の傍に近寄ると、濡れた目隠し布を取り払った。そして、泣き腫らした彼女の目元を親指の腹で拭いながら云った。

「お前は私のものだ。」

先んじて彼女に触れたことを咎めるように、毛利が三成の肩を引いた。三成は彼女から離されることを疎み、牙を剥いて毛利に唸る。

今にも互いが刃を交えんとする空気を前に、舞雷は完全に怯えていた。視界を取り戻しても、ただ茫然と成り行きを見守るしかない。
舞雷は自分の所有権を賭けて争う二人の姿を瞳におさめたまま、薄く唇を開いた。

「(……政宗様、私は……)」


――貴方に助けを求めていいのですか?


二匹の雄と孤の