今日は珍しく部長である竹中がオフィスに来ていた。色々と多忙である彼は、舞雷の働く課内は完全に毛利に一任して滅多には顔を出さない。

「うん、指摘事項があれば叱っておこうと思ったんだけど、さすが元就君だね。全く粗がないよ」
「当然よ。我を誰と思うておる」
「あはは、相変わらずだね。でも今日は終日こっちにいるよ、社員の働きも見ておきたいからね」
「使えぬ駒の面倒は負えぬ」
「おや、そこも君の仕事だよ」
「教育用の駒を寄越せ」
「今我が社は人手不足だって言ってるじゃないか」
「そんなこと我が知ったことか」
「専任が欲しいなら、課内で誰かを指名したらいいじゃないか。新人を多く回してるんだから出来るだろう?」
「……専任となると…」
「女性社員の事務仕事なら、まだ入社二年だけど舞雷君が優秀だね」
「………」
「おや、違うのかい?会議にも随伴しているものだから、君もよほど彼女の仕事ぶりを買っているのだと思っていたのだけど」
「あ、お茶が入りました…」
「噂をすれば、か。ねぇ舞雷君、今元就君と話していたのだけど…」
「ッ、まだ我は許可しておらぬ!」

またこのキツイ二人を前に怖気づいた新人社員に代わって茶を運んだ舞雷は、聞くともなしに聞いてしまっていた。彼女は正直、新人教育など自分には荷が重いと思っている。
確かにおせっかいと言えばおせっかいで給湯係など買って出てやってはいるのだが、それはそれだ。

「いいじゃないか、何か問題でもあるのかな?」
「…朔に新人教育係をあてるとなれば、事務仕事の能率が大幅に下がることになろう」
「その分君が他の事務員を教育していったらいいんじゃないかい?」
「……」
「何と言っても人手不足だからね。もちろん雇用にも力を入れているけど、今いる社員を強くしていくことは基本だよ、元就君」
「言われずとも判っておるわ」
「新人教育の専任が欲しいんだろう?確かに、いた方が効率がいい」
「……む…」
「(ちょっと、とばっちり食らうのはご免ですよ、課長!)」
「(仕方あるまい、ヤブヘビよ…)」
「(どうにかしてくださいよ!)」
「うん、決まり」
「え?」
「何?」
「部長命令。そう言った方が早いからね。はい決まり。舞雷君は今日から新人教育に専念するように。それから、元就君は他社員の教育にも目を向けて。使えないから切るっていう君のやり方は、今の社の状況では通用しない。使えない者を使えるように育ててこそだよ」
「……なんと愚劣な…!」
「あったね、粗」
「おのれ竹中…!」
「え…決まったんですか?」
「そうだよ、彼女らにお茶の淹れ方だけじゃなく、仕事も教えてやってくれ」
「は、はぁ…」

微笑む竹中に誰が反抗できようか。

「良かったです、朔さんについてもらえて!」
「至らない教育係ですがよろしく…て、そういえば今まではどうしてたの?判らないこととか…」
「課長に聞いていました…」
「それか、聞けないことは他の先輩にこっそり…」
「……うん、とりあえずあの課長にお茶を出せるようにはなってね」
「「がんばります……」」