「え、出張…?」
「ああ」

夕方、会議から戻って来た毛利は舞雷を呼びつけ、二泊になる出張を命じたのだ。
当然事務仕事が主で平社員の自分がそんなものに行かされる理由が判らなかった舞雷は、耳を疑いオウム返しに問うたのだが、毛利は頷いてしまう。

「得意先との会議を行う予定ぞ」
「か、会議って言ったって…」
「明日から二日に亘る会議ぞ、これの資料を至急用意せよ」
「ちょ、納得出来ません!何故私がそんな重要な会議を一人で…」
「一人?阿呆か。我がこの大任をそなた一人に任せると思うてか」
「………はい?」
「そなたは助手ぞ。我の傍らで内容をまとめよ。いつもしていよう」
「…あ…そういうことですか…」
「……何勘違いをしておる」

一人でパニックを起こして馬鹿みたいだ、と舞雷は顔を赤くして恥じた。しかし言葉足らずな毛利も毛利だと決めつけてとりあえず顔を上げる。

「…で、明日?」
「すぐにも発たねば間に合わぬ」
「…え?」
「此処から新幹線で二時間程度」
「………」
「会議の間近くのホテルに泊まる。もう予約済みよ」
「………」
「その資料が用意出来次第発つと言うておる。早くせよ」
「ま、待って下さい着替えとか…」
「向こうで買え」
「ええええ!?急すぎますよ!!やっぱり納得出来ません、私!!」
「……それと、舞雷」
「ッ、ちょ、課長名前…」
「耳を寄せぬか。……舞雷、ホテルの部屋は都合により一部屋ぞ」
「……何とおっしゃいました」
「喜べ」
「喜べませんよ!!」

さっきの誤解の恥ずかしさに別の恥ずかしさを足して、舞雷の顔は真っ赤になってしまった。
毛利に渡された必要資料の一覧メモは彼女の手の中でぐしゃぐしゃに握りつぶされている。

「…大丈夫?」
「あっ…?アハハ、別になんでもないよ……(バレたかな…)」
「…そんなに顔赤くして」
「(うっ…これバレたんじゃ…)」
「よほど怒りに火がついたようね」
「…え?ああ、そうなの!ほんと急に頭にくるよね!!」
「ま、私じゃなくてよかったわ。精々頑張りなさいな〜。あと、土産待ってる」
「はいはい…」
「じゃあね。おつかれ」
「おつかれー…(…いつも不思議に思うが、どうしてバレないのか)」

それほど不似合いなカップルなのだろうか、と舞雷は少し不安に思ったものの、急かされて資料をかき集め、慌ただしく毛利と並んで社を出た。