「おい舞雷、おめぇ引っ越したんか?」
「えっ…」
「昨日近くに行ったんでよ、気まぐれに寄ってみたら、お袋さんが出て来てアンタはいねぇって」
「あ……」
「今どこに住んでやがんでぇ」
「………」

学校で、舞雷と元就の仲は公認である。というより、舞雷は恥ずかしさがあって隠そうとしたのだが、そういう恥じらいを一切持たない元就があまりにオープンなので、露見したと言う方が的確である。
だが、その割に同棲の事実は誰にも洩れていなかった。当初、元就の方から周りの友人たちに言って自慢するであろうと思っていた舞雷は、だんまりの元就を見て拍子抜けしたものだ。

舞雷は、友人の一人である長曾我部に聞かれて、返答に本気で困った。同棲していることを内緒にしようなんて決めごとは交わしていない。なんとなく、元就が黙っているから舞雷もそうしてきた。だから、救いを求めて彼の方に視線を滑らせたのだが、気づいているのかいないのか。

「…答えられねぇみてぇだな」
「あっ、いや、その…」
「……何でも、誰かさんと一緒にアパート暮らしを始めたってェ噂だな」
「うっ…」
「その誰かさんってのは、単なる友人じゃあねぇよなァ?いや、同性ですらねぇぜ。ああ、つまり俺が言いたいのはよ、舞雷…アンタ、」
「うぅ…っ」
「浮気してんな!?」
「……へ?」

言い当てられる。と妙に緊張した舞雷だったが、自信満々に言い放った長曾我部を前に、大口を開けて呆けてしまった。それは舞雷に限らず元就もそうだったようで、手にしていた本をたたんで溜息をついた。

「かわいそーになぁ、毛利よぅ!」
「…真に可哀想なのは貴様の頭よ」
「あ゛!?」
「なぜ真っ先にその考えに辿り着く?阿呆としか言いようがないわ、阿呆」
「じゃあ誰だってンだよ!」
「……我ぞ」
「ああ?」
「舞雷と同棲しているのは、他でもない、我ぞ」

当然といえば当然なのだが、長曾我部は本気で驚いた様子で隻眼を見開いて、舞雷と元就を交互に見つめた。

「え、まじ?」
「うん…」
「なんっ、なんで今まで言わなかったんだよ!?」
「いや…なんか、元就が言わないから、私からは言えなくて…せっかく同棲はじめたのに、何でかなって不思議に思ってはいたんだけど…」
「いくらか照れ臭くて言えなんだ」
「え?!元就が?!」
「……それはどういう意味ぞ」
「…へぇー…上手くいってんだな…」
「ご、ごめんってば!」
「………」
「なんで怒ってるの!?」
「…ん?上手くいってねぇ?」
「舞雷そこへなおれ」
「だから何で?!」