ああ、何故なんだ。そんな風に舞雷は思った。足を踏み入れた新居は、双方の財布の問題でわがままが言えなかったボロの1DKで、目の当たりにすると更に絶望的に思えたのだ。
舞雷を押しのけるようにしてまず室内に入った元就は、きょろきょろと隅から隅まで目を運び、忙しなく狭い部屋を動いて浴室やトイレを覗いて、ようやく舞雷へ視線を戻した。盛大な溜息と同時に。

「……何?」
「…まあ…こんなものであろう」
「………」
「学生の身分ではこれ以上を望むも野暮よ」
「そうなんだけど…狭すぎない?」
「……よいわ、我は」
「え、」
「狭くともよいわ」

まだ玄関先に立っていた舞雷の方へ元就は早足で近づいて、外にあった荷物を運びにかかった。
その様子を見た舞雷は、引き返すのも最早無理だと気を取り直し、ようやく足を踏み入れる。先に元就がしたように、部屋の隅から隅までチェックして、浴室やトイレを覗いた。

「さっさと運ばぬか」
「無理だよ…重いものは。元就が運んで来て」
「……」
「…普通でしょ、なんで睨むの…」
「フン…」

相変わらずの鋭い視線に多少怖気づいた舞雷は、鼻を鳴らせた元就に続いて外へ出た。彼からしたらそれは了承の意でもあったのだが、判りづらい自覚はある。何も云わず、着いてきた舞雷に軽い荷物を持たせた。

「これで明日から学校ってきつすぎるよ…!大体私ベッド派なのに!」
「口より手を動かせ。いつまでたっても片付かぬ。それに、ベッドを置くスペースは無い」
「布団を二枚敷くのも大変じゃん…いちいち机を動かすの?」
「布団など端から一組しかないわ」
「え?!」
「はやく台所を整理せよ!」
「だ、だって今聞き捨てならない台詞が!布団ふたつ持ってるから心配するなって言ったの元就だよね!」
「二組持ってはいるが、必要ない」
「あるよ!ま、まさか二人で一組の布団に寝るとか……あっ!そっか…私に机で寝ろって言うんでしょ…」
「………そなたは我を何と思うている…一組で構うまい?」
「う゛っ……よくもそんな恥ずかしいことをぬけぬけと……」
「顔を染めている暇があったら手を動かせ。片付かぬ」
「恥じらいもデリカシ―もないね!」

これから先が思いやられる。と舞雷は頭の中をぐちゃぐちゃにしながら、高まった熱を冷ます為に蛇口を捻った。