「ジャ〜ン。なんと今日は三成の為にお弁当作ってきてあげたんだ!」 「…………」
理由?気紛れだ。
三成は目の前に出された私特製の弁当を前に、言葉も発さず固まってしまった。そんなにショックだったのだろうか。 それを見守っていた家康君とちかちゃんも、三成の反応を黙って待っている。
「な、なに…この時が止まったかのような間は…ザ・ワールド?」 「…何?」 「あっ、三成が喋った」 「………」 「黙っちゃった」
まだ包みも開いていない状態で、三成はまだ、目の前の弁当箱をずーっと見つめている。私が某漫画のアレを冗談で口にしたのが疑問だったようで一瞬顔は上げたものの、また戻って黙ってしまった。
三成の反応が予想と反していたのは私だけではなかったらしい。 いつもの如く「いらん」とか言って突き返してくるか、受け取るにせよ「食えるんだろうな?」のような憎まれ口を吐くだろうと私も二人も思っていた。私は、万一いつかの調理実習時のケーキのように普通げに受け取るかも…とまで思っていたから、やはり予想外だったことは確かだ。 しかし、私まで家康君やちかちゃんみたいに口半開きで“ぽかん…”と三成を観察していたら、話が進まないので喋るけれども。
「私の愛が籠った手作り弁当を受け取れないって言うの!?」 「ッ」
ふざけたら三成の体が驚いた。ん?
「ふん、いいよいいよ、食べたくないなら自分で食べるから!」 「おい舞雷…二人分食う気かよ、石田が食わねぇンなら俺にくれ」 「いいとも!」
復活したちかちゃんが欲しがったし、三成は相変わらず何も言わないので、いらないんだろうと解釈して弁当に手を掛けた。すると意外なことに三成が動き始めたのである!
「え、え?何故私の腕を掴むの三成君!」 「長曾我部にやるな、私が食う…」 「食いたかったなら最初から素直に受け取ればいいじゃないか、三成」 「家康きさま・」 「ケンカしたらこれはちかちゃんのもの」 「………」
…いつかのカップケーキを思い出させる。案外三成は食欲があったのか?
ようやく三成が手を動かし、包みを解いて蓋をあける。 ふはは、どうだ畏れいったか、私は弁当を作るのもうまいんだぞ!味は保証付きだぞ!お気に入りの冷食を厳選して詰め込んだんからな!
「おい舞雷、卵焼きくらい作れよ…それかウインナー焼くくらい出来んだろ?」 「朔が不精なのは知っていたが、予想以上だなぁ」 「なんか低評価だなぁ、心外」 「おいおい」
自慢の弁当を外野二人が酷評してきやがる、ちぇ。 (本当は冷凍食品でガッカリなことは自覚しているんだ!)
肝心の三成は、また暫く弁当を凝視していたが、やがて箸をつけ始めた。 長年幼馴染をやってきてお互いをほとんど知り尽くしていると言っても良いが、三成の食事シーンはいつ見ても目を奪われると言うか、観察していたくなると言うか。目を離せずじっと、朝一には凍っていたおかずが吸いこまれて行くのを眺めていたら、数回の咀嚼の後喉が鳴って、三成は眉を寄せた。
「まずい」 「え――――!!」 「何がえー、だよ。ショック受ける必要ねぇだろ、冷凍食品なんだからよぅ」 「三成が食細になったのって朔の影響なんじゃ…」 「いやそこまで影響してないよ私。三成がもやしっこなのは、私が原因じゃない、断じて」 「そうか、すまん!」
家康君は誤魔化すように笑った。 その傍らで三成がまだマズイ弁当を食っている。
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