ちかちゃんから聞いたところによると、何かが起きていつもの「家康ぅぅうう!!」という発作が起きた三成が、いつにも増して激しく煩くしつこく家康君を追い回したらしい。当然捕まれば酷い目に遭うと判っている家康君は必死になって学校中を逃げ回ったが、それを追い回した三成はたまたま居合わせた武田先生に捕ま…というか拳で止められ、吹っ飛んで倒れたらしい。

倒れた、と言っても気絶する程のことでもなかったようだし、頭にたんこぶを作って体中を強かに打ち付けた所為でぎっくり腰の老人みたいに動けなくなった、だけらしい。ちょっと横になっていれば大丈夫だろうと保険医は言ったそうだ。

「見舞いに行くのか?」
「うん」
「…そのチューリップ持ってか?」
「うん」
「まさか、そのチューリップを石田にやるんじゃないだろうな?」
「さすがかすがちゃん、わかってるぅ〜!」
「…嫌がらせだろ最早…」
「えー?」

良く考えろ、石田にチューリップが似合うのか?貰った所で喜ぶような男なのか?と、かすがちゃんは私の両肩を掴んで激しく前後に揺すってくる。
勿論三成がこんな、庭で大量生産しているチューリップをもいだだけの見舞いの花なんて喜ぶ筈ないのは判っているし、チューリップがまさか似合う男だとも思ってやしない。それに保健室で横になっているだけなので、見舞いというのも仰々しい気がする。
これは単なるからかいがてらの見物だ、と笑って言い放ったら、かすがちゃんは妙に納得して私を解放した。

「明智せんせーっ!三成を見物しに…て、ちかちゃん」
「今明智いねぇぜ。お、ちゃんと見舞いに来たか。健気じゃねぇか」
「見舞いではない、見物だよ、ちかちゃん君」
「……へいへい」
「ん?!ち、ちかちゃん!」

先客のちかちゃんを見れば、その手には私と同じく学校の庭からもいだであろうチューリップが握られているではないか!

「かぶっちゃったよお見舞いの品が!」
「お?ああ、舞雷もチューリップ持ってきたのか」
「揃いも揃ってなんだ貴様ら…!私をおちょくっているのか…!」

近寄ってみると、ベッドで横になった三成は見た限りでは普通だが、起き上って文句を言ってこない辺りから察するにやはり体が痛いようだ。

口ばかり動いても寝ている人間相手では恐怖など感じないものだ。
私とちかちゃんは互いに目配せし、チューリップを突き出した。

「「お見舞い!」」

二人とも赤いチューリップ。可愛い花です。とてつもなく三成に似合わない。顔の近くに突き出したものだから、チューリップがいかに三成と釣り合わないかが視覚的によく伝わってくる。
ツンケンしている三成には、幼稚園児の象徴と言っても過言ではない可愛さが売りのチューリップは、本当に不釣り合いだ。思わず笑いがこみあげて来る。
しかし、ずっと見つめていると逆に似合うような気がしてくるから不思議だ。

「写真!写真とりたい!」
「いいじゃねぇか、名案だぜ!っはは、こりゃ傑作だな!」
「や、やめろ貴様ら!」

三成が動けないのをいいことに、私たちは三成の横にチューリップを添えて、携帯のカメラ機能で撮影を始めた。
ただのイタズラ心からだが、妙に楽しかった。

「これ待ち受けにしよーっ!あ、パソコンにデータ写して引き延ばしてデスクトップにする」
「印刷して掲示板に貼っちまえ!」
「ちかちゃん!そこまでしたらイジメになっちゃうよ!」
「ン?そうだな、悪ぃ悪ぃ!」

わはははは。

……いや、そのほとんどが本気と言う訳じゃなかった。勿論悪乗り、悪ふざけ。しかし三成にそんなイタズラ心が判る筈がなかった。
それに、いくら体を打ち付けて動けないとはいえ、全く微動だにできない程ではなかったのだ。

「「あ」」

怒りゲージが降り切れた三成は般若のような顔で私たちの手から携帯を奪うと、それらを真っ二つにへし折った。
さっきの写真のデータだけ消してくれればいいものを、ああ、バックアップとってないのに。

「ばっ…、莫迦ヤロー石田、てめぇコラァ!」
「何か文句があるのか……?」
「…うっ…いや…俺らが悪かったし?なぁ舞雷!」
「あ、うん。ゴメンネ三成…」

数分の愉しみの為に随分高くついてしまった。