自慢じゃないが私は絵を描くのが上手い。りんごを描かせれば焼きトマトに見え、似顔絵を描かせればモデルが性転換して見える程だ。
「だから安心したまえ三成君!」 「そのりんごの絵を本気でトマトだと思ったのは他でもない私だ、それにお前が小学校の時に描いた家康の絵をオカマと称したのも私だ」 「そうだっけ?じゃあ私の実力は判ってるね〜、さ、決めポーズとりたまえ」 「願い下げだ。誰が貴様になど描かれてやるものか」
おいおい、呼び方がお前から貴様に退化したぞ、どういうことだ。
学校から誰かの似顔絵を描いてくるようにという課題が出て、そのモデルを三成にしようとしたのだが…、どうやら彼はとても不服らしい。とりあえずこうして私の部屋にまでは来てくれたが、スケッチブックを抱く私の方を見やしない。
「あの時のように家康を描け」 「えー、つまんない」 「……なら他に己をどんな姿に描かれようと腹を立てない奴に頼め」 「その言葉の真意は?」 「貴様の絵は下手すぎるから自尊心のある奴をモデルにするなと言っている」 「うわぁ……なんてドストレートな奴…」 「言えと言ったのは貴様だ」
まだ貴様か。と思ったものの、ヘソを曲げているのだから仕方ないことにする。
「いいじゃん三成…もう此処まで来たんだし」 「知るか。私は帰る!」 「え、ちょっと!お返しに三成のモデルしようと思ったのに!」 「……いい、私は他を描く」 「え、誰?モデル頼めるような友達いるの?」 「………」
あ、もしかして失礼なこと言っちゃったかな。 立ち上がった三成の腕を反射的に掴みながら、見降ろしてくる目が威圧的でいくらか怯む。
「よくその辺にいる野良猫を描くつもりだ」 「は!?駄目だよそれ、モデルは人間でしょ」 「………」 「いいってば、三成。描かれたくないなら描かないからさ、私をモデルにして描いてって」
描かないというのはハッキリ言って嘘だ。目の前で描かれる為に大人しくしていてくれなくても、長年見続けてきた顔だから現物が前になくても描けるし、写真という手もある。 内心ほくそ笑む私のことなど知る由もない三成は、無言でさっきの位置に座った。
「じゃ、はい。このスケッチブックでいいよ」 「…言っておくが期待するな」 「三成の絵が棒人間クオリティなのは判ってるから大丈夫」 「……つまりお前には自尊心の欠片も無いということか」 「な、なに!!」
聞き捨てならない言葉が聞こえてきた気がするが…、貴様がお前に戻っただけでも良しとするか。
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