「よぉーし、帰るぞ!」 「……暇人が…」 「え?!」
放課と共に解放感を存分に喜んでいたところ、辛辣な一言が、前の席に座っている男から発せられた。 問題の男は己に掴みかかる幼馴染を完全に無視し、さっさと帰り支度(と言ってもまだ帰路にはつかない。剣道部に所属しているので向かうのは剣道場)を進めている。
「三成〜!何だその失礼な発言は!聞こえてたんだぞ!!」 「耳元で吠えるな、やかましい。ただでさえお前の声はでかくて耳障りだというに…」 「三成だって家康君を呼ぶ時は煩すぎて鼓膜破れそうになるよ」 「……家康?」 「何……」
我々とは半幼馴染といった家康君と三成の間にどんな確執があるのかを私は知らないが、とりあえず名を出しただけで機嫌が最悪になる程度には酷い思い出があるようだ。
「暇人は早急に帰れ。私は忙しいんだ、邪魔をするな」 「むっ。私だって忙しいし!」 「ふん、どう忙しい?所属する部活もなければ、散策するつもりも買い物に出かける金も無いだろう」 「ぐっ…!お小遣い事情まで知られているとは…!」 「帰って寝るだけの女が忙しいなどと口にするな」
まったく、三成は私に対して容赦がない。 ハートがガラスの子だったら、今の台詞でヒビが入るか、へたすると崩壊するところだ。私だったから無傷で良かったな、三成!
支度を終えて立ち上がる三成の脇に立っているので、彼は私をどかさないと移動することが出来ない。反対側は窓際の席なので壁or窓。一階ならまだしも三階なので、いくらなんでも窓から出ていく方法はとれまい。
「三成、一つ勘違いしているみたいだから、それを訂正した上で私にちゃんと謝罪できたら、大人しくどいてあげる」 「……舞雷…」 「あー。そんな呆れたような顔しても駄目ですぅ〜」 「そのふざけた口調を辞めろ…」 「いいかね三成君。私は部活に所属していないと君は言ったけれど、そんなことないんだよ」 「……ああ、もういい、聞きたくない……」 「私はれっきとした“帰宅部”所属!おうちに帰るまでが部活動!!」 「生粋の阿呆が……」
あれ? 心なしか三成の呆れ顔が、可哀想なものを見る目になったような…気の所為だな。
「ほ〜ら、今の私はまさに部活動中なのだよ〜?」 「……いいか舞雷、私がいくばくかの親切心で訂正してやる。帰宅部所属と言い張るのはこの際咎めない。が、それなら活動は放課と共に終了する。おまけをつけても校門を出たら終了だ」 「………つまり?」 「お前は暇人に違いないと言っている。どけ」
そもそも私の発言も思いつきばかりのことで深い意味はないし、特に主張したいことでもない。 どうあしらわれようと構わなかったが、何とも煮え切らない思いでいっぱいだった。
「い、忙しいって!」 「…ああ判った、ならさっさと家に帰れ」 「とにかく帰したいの?!」 「お前は結局私にどうして欲しいんだ…?」 「…いや別に……」 「…………」 「…………」
妙な展開になってきた。 ただの他愛ないお喋りの範疇のつもりだったのがこうなってくると気まずい他無いので、すっと立ち位置をずらして三成を通すことにした。 邪魔な壁がどいたので、三成はすぐに歩き出す。 その背中に「ガンバッテネ」と片言で投げてみたら、三成の片手がひらひらと浮いた。
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