いくらお向かいさんだからと言って、必ず登下校を三成と共にすると決めている訳ではない。剣道部の三成と帰宅部の私では当然帰路につく時間が違う訳で、ついでに言うと友人の殆どが何かしらの部活に従事していて、大概一人で帰っていた。

「あれ?」
「朔?」

校門を出た直後、珍しい人物が帰路についていたので思わず変な声を出す。すると、気づいた背中がこっちを振り向いて、気さくな笑みを浮かべた。

「珍しいね、家康君。ボクシング部はどうしたの」
「部員の半数が過労で倒れて、強制休みになったんだ」
「……へー…」

いまいち自分の通っている学校の何部が強いなどの情報に疎い私でさえ、この家康君の所属しているボクシング部が有名だということくらいは耳に飛び込んでくる。それだけの地位を得るには、やはりそれなりのトレーニングをしているということか。でも過労で倒れるというのはやり過ぎだと思うが。
目の前の家康君はけろっとした様子で、疲れの片鱗も見せていない。

「…ま、いいや。じゃあ今日はもう暇なの?」
「ああ。帰るだけだ」
「じゃあ一緒に帰ろう。家近いしね」
「そうだな!」

家康君は私の誘いを、人懐っこい笑みで快諾した。
このくらいに人当たり良く笑えれば、三成も可愛げがあるのに。

「でも良かったのか?朔」
「何が?」
「ワシと二人きりで帰って。三成にバレたら大変だぞ」

ああ、またか。

「…家康君もさぁ、誤解してるの?私と三成は恋人同士じゃないんだけど」
「は?誰がどう見たって恋仲じゃないか!」
「思い返せど甘さの片鱗もないよ、私たちの関係!単に三成が他の人と喋らな過ぎるだけじゃない?」
「…あ、そう言われるとそんな気もしてくるな…」
「そうなんですよ」

孫市といい、ちかちゃんといい…。
それを言われて否定するのもいくらか気が重いんだから辞めて欲しい。

「……いや、やっぱり三成は朔を好きだと思う」
「はぁ…?やめてよねー…みんなしてそんなの…」
「否定することないだろう?好かれて嫌なのか?」
「…嫌ってことはないけど…ああ、そんなんじゃない!三成はそんなんじゃない!」
「素直になれ、朔!」
「素直だよ!」

わはは、と雄大に笑われて、瞬く間に私は赤面した。何故?何故って?どうしてか恥ずかしかったのだ。

「あっ、ほら、もう家康君の家そこでしょ!バイバイ!」
「ツンデレ同士の恋…いや、自覚してないからツンデレでさえないのか…?うーん難しい…」
「ちょ、何分析してんの、らしくないよ!筋肉バカ!」
「わかったわかった、卒業までにお前たちがくっつくのに千円賭ける!」
「同じようなこと孫市も言ってたぞ!!」
「ははは!」

……なんか頭が痛くなってきた。