授業態度は悪くとも、基本的には…わざわざ教師に呼び出されての個別指導を食らうようなマネはしないのが私という人間だった。だから、やりたい放題やっては校内放送で呼び出されたり果ては停学処分を食らいまくっている"ちかちゃん"とは別の世界にいたように思うのに、どうしてだか始業ベルの直後である今、私がいるのは校舎裏だった。
「え、なに、この煙草の吸殻的な…あっ!アレか!チョコ?あったよねこういう包みのチョコ」 「チョコなわけねぇだろ、煙草の吸殻で間違いねぇよ」 「案外荒れてたんだ…この学校…」
あの校長の圧倒的存在感(デカイんだもの)やら、個々の教師の(個性はともかく)厳しさを見る限り…その辺の学校よりはまともなのだろうと思っていた私が馬鹿だった。 未成年喫煙はいけません!などとわざわざ注意して回るつもりはないものの、良いことだと思っているわけでもない。勧められても断る方なので妙に居心地が悪いが、甘言に乗ってサボったのは私の意志だ。
そもそも私がこんなところでサボるに至ったのは、このちかちゃんの誘いだった。彼の傍で「あー、授業出るのめんどくさいよ〜」と何気なく呟いたら、「じゃあサボっちまえよ」となったのである。実に単純だ。
「他にサボってる生徒いると思ったのにいないね。主にちかちゃんの取り巻きだけどさ」 「サボる=校舎裏が絶対じゃねぇんだよ。屋上とか校外とか色々あんだろ」 「……思えば今の授業竹中センセだった。怖いな…怒られそう。せめてサボりはサボりでも仮病付きがよかった」 「たかがサボりでグダグダ言うんじゃねぇよ、みっともねぇ」 「あー、今からでも保健室行こうかな…!!」 「竹中は案外平気だって」
物事をマイナスに考えると次々にマイナスが現れる。 今頃授業は普通に進んでいるのだろうが、大好きな竹中先生の授業をサボって空席になっている背後を三成がどう思っているのやら。それとも目の前の竹中先生に夢中で気づいていないのか、どうなんだ。
「あー帰りたい!!」 「肝っ玉の小せぇ女だな、舞雷よぅ!俺が鍛え直してやろうか?」 「イヤ!不良デビューなんて願い下げだ!!」 「不良になれなんて言ってねぇよ」 「ううぅ…!あっ!!そうだ、ちかちゃんに無理やり攫われましたって言えばいいんだ!」 「さも名案!て手ェ打つな!!俺が強姦魔みてぇだろ!!おい着崩すなてめぇ!!」 「キャー!」
名案だと思いはしたが、いくらなんでも友人を売るのはマズい。悪ノリで自分の制服をぐちゃぐちゃにしたら、本気で慌てたちかちゃんが腕を伸ばして制服を整えようとしてくる。 悪ノリに加えて悪ふざけで悲鳴をあげた。しかしそれが…万一誰かに見られていた場合に酷い効果だったということに気づいたのは手遅れになってからだった。 いくら私が笑っていようと、大柄なちかちゃんが覆いかぶさるようになっていれば見えないだろうし、ちかちゃんからは見えないだろうと、大股開いて足を上げたポーズだった。
「…舞雷…俺、死ぬぜ…」 「え、いや…そこまではないんじゃないかな……?」
私とちかちゃんしかいない筈の校舎裏に突如現れたのは、まさかの三成。竹中先生の授業中に出て来るなんておかしいにも程があるけれど、確かにそこに立っている。
「長曾我部、貴様…!!」 「ほら、キレてンだろ!」 「え〜…なんであんなに…怖ッ」 「普通好きな女犯されかけたらキレんだろ、馬鹿か!」
……は?
ちかちゃんは慌てて私から離れ、三成の方を向いて必死に説明している。
好きな女?三成が私を好きだって? そんな筈ナイナイ。また勘違いしてる人見つけちゃったよ。
「ちかちゃん、絶対ないと思う」 「あ!?何の話だよ!」 「さっきちかちゃんが言ったこと」 「じゃあ何でキレてんだよ!」
どうせ校長とか竹中先生がどうたらこうたらだ。 三成はもの凄い怒りの形相で私たちに近寄って来た。
「貴様は秀吉様や半兵衛様の顔に泥を塗るつもりなのか!こんなところで堂々と不純姦通など認めない!」 「……あれ?」
ほらみろ。
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