舞雷が朝教室に入ると、既に席についていた二人の様子がおかしかった。ただし挨拶をすれば二人はちゃんと返してくるし、いつものような談笑も元親にはあった。毛利は些か本来の彼のように佇んでいたが、冷たくなったわけではない。だが二人は会話をしなかった。全く持って関与しない姿勢の二人の間で、舞雷は彼らがケンカをしたのだろうと思っていた。

なんとも微妙な居心地の悪さを感じながら一日はしかし早く過ぎ去り、時は放課後。いつもなら一緒に帰るとどちらともなく言い出す筈が、二人は舞雷が引き止める間もなくどこかへ消えた。それを淋しいと思いながらも彼女は教室を出て、玄関に向かっている途中のことだった。向かいから二人が並んで歩いてくるではないか。

「あ、二人とも――、痛ッ!」

元親も毛利も表情は険しかった。しかし並んで歩いているくらいだから仲直りしたのだろうと舞雷が声を掛けた時だった。意外にスピードの出ていた二人は間に舞雷を挟むように足を運び、減速するでもなく彼女の両肩に衝突して歩き去ってしまったのだ。衝突ついでに彼女の手に何かを握らせて。

「な、何だったの、アレ…」

両手に握らされたものを確かめる前に後ろを振り向いた舞雷だったが、彼女の視界で元親も毛利もまだ突き進んでいた。そして二人は、壁を前に左右に割れて姿を消した。

「……紙?手紙?」

とにかく驚いた。しかも二人が割と激しくぶつかって行ったので妙に体が痛い。舞雷は息を弾ませながら、両手に残された紙切れを見た。まずは左から。毛利の渡して行った紙である。それを見た舞雷は絶句して紙を落とした。震えながら、今度は右の元親から渡された紙を開く。そして更に絶句した舞雷は、顎が外れんばかりに口を大きく開けて、ひらひらともう一枚を落としたのである。



(廊下ですれ違った瞬間に)




「おい毛利、てめぇなんて書いた」
「我と付き合えと書いた。貴様は」
「俺と付き合えって書いた」
「………」
「………」