先日のピンポン勝負で辛勝した元親は、舞雷をゲットできたと思ったのだが当然甘かった。確かにこの時、舞雷は彼が自分を好いていると自覚してくれたのだが、だからといってあんな口約(しかも交わしたのはライバルの毛利と)は無効だ。翌日にもなれば見事忘れ去られて元親は泣いた。

「アニキー!今日の弁当です!」
「おう、ありがとよ!」
「元親って便利な舎弟がいるんだね…お弁当作ってくれるなんて…」
「ばっか、違ぇよ。コンビニだ」
「なんだぁ」
「…舞雷、そなた…今日の弁当はどうしたのだ」
「あ、うん…それが…」

昼休み。色々あって元親と毛利に挟まれてのお弁当タイム。舞雷はいつも弁当を持参するのだが、一向にとりだす様子がないので毛利が訪ねた。すると彼女は苦笑しながら財布を取り出し、忘れてしまったと言った。

「ちょっと購買行ってパンか何か買ってくるね!」
「あ?だったらこれ食えよ、俺が自分の買ってくっから」
「いいよ、ちょっと購買でご飯買ってみたかったし」
「そうかァ?」
「…元就はいつも購買だよね?」
「ああ」
「……行かないの?」
「着いて行ってやってもよいが…我の分はもうすぐ届く」
「…?」

そういえば毛利はいつも購買のパンやら弁当を食っているが、買いに出かけた所を見たことがない。いつも舞雷が自分の弁当をカバンから取り出し、ふろしきをひも解く頃には手に持っていた。

「…よくわかんないけど、とりあえず行ってくるね。早くしないと混んじゃうし!」
「気をつけろよ」
「はーい」

舞雷はとりあえず毛利のことは考えず、購買に向かって走り出した。



さて、購買は既に人混みが激しくなっている。置いてある昼食の在庫がなくなって消しゴムしか買えなくなったらどうしよう、などと舞雷は思いながら、揉みくちゃ状態で菓子パンを二つゲットした。

「(わっ、この人いくつ買うの?!)」

会計に並んでいると目の前の小柄の男の両手に抱えられたパンや弁当を見て舞雷は思わず目を見開いた。確かに体躯を見れば肥満の男なのでそう不思議でもないのだが、そろそろ品薄になってきて「昼飯抜きかー!」などと誰かが叫んでいるのを聞くと妙な気分に陥る。

舞雷の前にいたその男は会計でも見事手こずってくれて、彼女をやきもきさせた挙句通路でパンを落とし、「あわわわわ…!」などと呻いていた。ちょっと可哀想と思いながら彼女はそれを通り越し、教室に戻った。

「遅い!!」
「わっ、も…、元就、ごめん…」
「!いや、違う…そなたではない」
「パシリが戻ってこねぇんだとよ」
「パシリ?!」

戻るや否や不機嫌な毛利を前に、舞雷は出がけの疑問を解決した。彼ならパシリの一人二人いるだろう。

「……あ、もしかして元就のパシリってさぁ…太った、小柄の?」
「…なんぞ、知っておるのか」
「ううん、さっき見かけて…なんか大量に買い込んでたし、パシリにされてそうだなーって…」
「いかにも、そやつが我の駒ぞ」
「へ、へぇー…やっぱり…」
「もっ、も…、毛利さばぁ!」
「あっ」

ゼーゼ―いいながらそのパシリが教室に入って来た。

「貴様何をしていた」
「ご、ごめんなさいぃぃ!!だから殴らないで!痛いのイヤー!!」
「……一体…」
「舞雷、考えんじゃねぇ」
「うん……」

心底忌々しそうな顔をして睨む毛利と、既に泣きっ面で平謝りするパシリを見て、舞雷も元親も目をそらした。パシリの男はいくらかパンを置き、金はちゃんと受け取って去って行った。しかしだ。

「も、元就…さっきあの人パン落としてたから気をつけてね。そのパンかは判らないし包装されてるから平気だとは思うけど……」
「おのれ金吾…!!」

毛利は青筋を浮かべてパンを握りつぶした。