席替えをしたところ、舞雷は元親と隣同士になった。通路を開けた左隣は大して仲の良くないクラスメイトに決まったが、舞雷と元親が隣同士になった挨拶をしている僅かな間に毛利と交代した。

「え…私、両手に先輩だよ…」
「何言ってやがんだ、ろくに気にもしてねぇ癖によぅ」
「宣言しよう。貴様の成績は格段に上がる…!」
「も、毛利先輩が隣でずっと勉強を見張るつもりだ…怖い…」
「大体汚ェ手で舞雷の隣に来るんじゃねぇよ!ま、勉強見るにしても通路分席は離れてンだ、俺の方見て遊んでりゃいい…って席寄せてんじゃねぇよ毛利ぃ!歩き難いだろが!」
「フン…屑共が歩き難かろうが心底どうでもよい」
「毛利先輩私…そんなに集中力が持たないから…」
「安心しな舞雷。おい毛利、一時間ごとに舞雷を独占する。それでどうだ?」
「な、なにそれ?!」
「よかろう」
「え?!」

右手に元親、左手に毛利。二人に挟まれた舞雷は二人の顔を見るのに首を振り過ぎて眩暈がした。大体二人の妙な結託が意味不明だった。毛利は舞雷に留年を選ぶ程の好意があると彼女は自覚していたから、ある程度の行動は(この席移動にしても)理解があるのだが、元親に関しては気のいい兄貴肌の先輩と後輩であるとしか思っていない。それを独占と言われた舞雷が混乱するのも無理はなかった。しかし、やがて彼女は元親に関しては深い意味などないのだろうと解釈し、考えるのを辞めた。考えるのを辞めることにした時には、二人の独占の順番が決まっていた。

「よし、舞雷!次の授業は勉強なんざどうでもいいぜぇ!」
「う、うん?」
「教科書とノートだけ開いて遊んでりゃいいンだよ!そうだ、見て欲しいもんがあるんだがよ…」
「見て欲しいもの?」
「おうよ、これだ、これ!」

元親は机の中から使い込んだノートを取り出し、豪快にバサバサ捲ってあるページを示した。それが舞雷の目の前に置かれた時、教師片倉が教室入りしたが当然二人(+毛利)は気にしない。ノートには設計図のようなものが所狭しと書かれていた。

「え……なに、これ?設計図?」
「また貴様懲りもせず…」
「また?」
「このカラクリさえありゃ追いかけて来る教師…竹中までまける!いいか、この鬼の頭を模したデザインのなァ、鼻の穴から煙幕が出るんだぜ!目は強烈な光が出るから太陽拳!なんつって!ハハッ!で、この手の部分からは追跡してくる教師の足を滑らせる油が出てよぅ、ついでに発火装置が…」
「いい度胸じゃねぇか長曾我部…俺の授業でらくがきたァ…」
「あァ?!これのどこがラクッ…、げ!」
「覚悟は出来てんだろうな?」
「おいッ、まだ設計図の段階なんだよ!現物はできてねぇ!!」
「だからなんだ!!」
「追いかけんのはこれが完成してからにしろってことだぁ!!」

額に青筋を浮かべた片倉に睨まれた元親は、だっと席を立った。片倉はこの不良を逃がすまいと追いかけた。元親は逃げた。逃げるつもりだった。しかし、

「あああ毛利てめッ邪魔だぁあ!」
「フン」

舞雷にくっつきたくて通路を塞いでいた毛利のおかげで、あっけなく片倉の手に落ちたのだった。