「おめでとう!」
「ありがとう、舞雷!」

舞雷の隣に座っていた同僚が結婚することになり、同時に退社となった。入社三年に届かない程度ではあったがめでたいことだし、課内で送別会を開くことになったのだ。

「舞雷も早く恋人と結婚しなさいよ。先に子供できたらどうすんの」
「ゲホッゲホ!ちょ、ないない!」
「何で言い切れるのよ…まさか…してない訳ないでしょ?」
「いや…してなくはないけどね、その辺しっかりしてる人なんで…」
「しっかり避妊?」
「…早くも酔ってるね…?」
「紹介しなさいよ、恋人!今ここに連れて来い!呼び出せ!!」
「あ、ちょっと!?酒こんな弱いなんて知らなかったまったく!携帯盗むなー!!」

まだ開始して間もないというにすっかり出来あがってしまった同僚は、赤い顔して舞雷のバッグから勝手に携帯を取り出した。

「……何よあんた、履歴課長ばっかりじゃないの」
「あああああ!!」
「………舞雷…あんた…」
「(今度こそバレたよこれ!)」
「…仕事好きねぇ…」
「(あれ?!)…あ、うん…」
「だめよ、男も相手にしないと」
「うん、わかってるよー…」

どういうわけか、何がどうなろうと舞雷と毛利は公認にはなりそうもない。

「そうだ、酌すべきよね、挨拶もだわ、課長」
「なんか支離滅裂になってきてるよ」
「ほら舞雷来なさい!」
「一人で行きなよ最後くらい!」
「何度も連れションした仲だろ!」
「酔いすぎだよ!!」

結局同僚に手を引かれ、舞雷は上座にどっかり座っている毛利の傍に座った。

「課長、お世話になりました、あの冷たい目で睨まれ続けた日々を忘れませんわ、わたくし」
「なんだこいつ、酔っているのか」
「…酔ってますよー…」
「酒の席は無礼講ですよねぇ、課長!飲んでます?飲んでますよね?最後に酔っぱらって正体失くした課長が見たいんですけど。餞別に」
「餞別など与えてやらぬわ」
「課長は性格が悪すぎるから女にもてないんですよ。舞雷くらいですよ、相手にしてくれるのは。もっと早く手を出せば彼氏も出来なかったのに結構まぬけですねぇ」
「……殴ってよいか?」
「だめです課長。酔ってるんでご容赦よろしく」
「アッハッハ!」
「……面倒よ、連れて行け。その後一人で酌をしに来い」
「はいはい…ほら立て!歩け!」
「まだ餞別受け取ってないわ!」
「酔わせておくから!」
「おっ、いい子ね舞雷」
「戻るよー!」
「お〜」

どんどん酔いが強く回って行く友人を引きずり元の席へ戻すと、舞雷は言いつけ通り毛利の傍に戻った。

「…私も酔っぱらってべろべろになった課長見たいです」
「我とて酔ったそなたが見たいわ」
「………」
「………」
「手っ取り早いのは、飲み比べですかね…」
「フン…よかろう」

飲み会の雰囲気がそうさせるのか、二人は賑やかにする皆の目を盗むように、密やかに飲み比べを開始した。

元来負けず嫌いの二人である。意識が朦朧として来た頃、そこら中で沢山の人間が開けたグラスが混じり、勝負どころでないのに気づいて同時に潰れた。

「舞雷、そなたまだ正気か…」
「そっちこそ…元就、壊れた…?」
「なんの…これしきで我の愛は壊れぬわ…」
「へ…?元就おかしいんじゃないの…壊れたね、壊れた…」
「おい、こっちで課長と朔がブッ潰れてんぞ!!」
「何!珍しいな!!」

わらわらと社員たちが集まってきているが、己らは否定しようともべろんべろんの二人は勿論気づかない。

「さっきね…子供出来ちゃう前に結婚しなさいよって言われたんだ…」
「…何を言うか…我に限って失敗などせぬわ……」
「うん…そうだからさ…ないよって言ったんだよ…」
「……結婚したいのか、舞雷」
「えぇ…?」
「我はしたいぞ……」
「……え、そうなの…」
「…なんぞ、嫌か」
「まさかぁ……」
「我とそなたがめおとになれば…そなたは異動ぞ…それか我が転勤…」
「……あー……」
「…面倒よ……」
「それでも…ついて行きますからね…元就しゃん……ぐー」
「ともなればそなたは専業主婦ぞ…愚か者……すー」
「…何、課長と朔できてたの?」
「……みたいだな」
「なんて餞別…酔い飛んでったわ」
「…同じく」

眠ってしまった二人の周りに酔っ払いはいなくなった。