冷たい手が酷く艶めかしく体中を這っている。

私はこの時従順だった。拒絶したいこの一心を偽っている訳ではないけれど、自分に向けられているまっすぐな、けれど歪な三成様の情念を前に、一時的に反駁心を失ったのだ。

いっぱいの否定の後、妙に聞き分けの良くなった私を、三成様は満足そうに見降ろしていた。
その目に特別な憤りや、焦り、苦悶などは見受けられない。彼は私が従順になったことで、信じられない程優しい目をした。

「いい子だ、舞雷」
「んっ……」

口づけは蕩けるようだった。
まだ精一杯拒絶を示していた頃殴られた痛みが、まだ尾を引いて頬は引き攣り、切れた口内に血の味が広がっている。しかしそれらを忘れさせるような、陶酔してしまうような接吻だった。縛られた両腕は頭上で固定されたままだったが、思わず三成様の首に腕を回して縋りたくなる程に、何故か心地が良かった。

唇が離れると、少し血の混じった唾液が荒く息をつく私の口端をだらしなく垂れていく。
三成様は静かにそれを見守って、身体を屈めた。そしてもう一度深く口づけし、腕を伸ばして、既に露わにされていた膣口に指を這わせる。

「っん!」
「こうまでいい子でいられるものを…何故今まで拒んでいた?」

例えこの人の優しさを見ても、口づけに酔っても、恐怖の頂きであることは拭い去れない事実。
それは判っているのに、私の体は少し前から自分に覆いかぶさる男を受け入れる準備を始めていた。濡れていた膣に三成様の細い指が侵入し、その窮屈さと軽い痛みを伴う感覚に悲鳴を上げる私を愛しそうに見降ろす双眸。

「私が愛おしいならそう言えば良かった筈だ。何も、暴れて口を閉ざし、此処を濡らして証明するようなことではない」
「あっ、ん、…ぅ…!」
「……まぁ、いい。私も気づいてやれなかったからな。憤ってすまなかったと思っている」
「んう、ぅ…!」

私が抵抗を殺したことと膣が濡れていたことで、三成様は刀を投げ捨てる直前までの憤りを誤りだったと謝罪する。
……嗚呼、違うの。誤りなんかじゃない。私は本心に従って貴方を拒んでいた。ただ今は、今だけは、正気じゃないだけ。

三成様の指が膣から抜けて陰核を擽ってくる。それが恐ろしい程全身を麻痺させて、余計に頭がおかしくなった。
身に襲いかかる快楽に私の心は負けてしまった?こうしていれば三成様が怒らないからこれでいいの?いいえ、そんなことない筈だ、これは望まぬ情事。無理に組み敷かれて何がいいと?愛をかざせば総てが正しく押し通ると?嗚呼、もうやめて、やめて、やめて、

「ひっ、…う!」
「力を抜け」
「いッ・痛……ッ…!」
「……可愛いぞ、舞雷」
「痛ぃ…ッやっ…やめッぇ…!」

慣らすのもそこそこに、三成様は男根を突き入れた。当然私は処女だ。失われた破瓜の痛みに心まで裂けてしまいそうだった。
……否、裂けてしまった。

自分を追い詰めて、苦しめているのは紛れもないこの男。私に愛を語って痛みを与えているのは、彼だ。でももういっそこの男で構わない、私の辛さを、痛みを、紛らわせる為ならば。この男にしがみついてしまいたかった。

「取って、取って…!」
「ん……?」
「捕まりたい、掻き抱きたい、しがみつきたい、縋りたいッ!」
「舞雷……」
「貴方に……っ!」

膣が熱くてまだ痛い。それでも三成様は出し入れするのを辞めなかった。恐らく出血を伴う結合の手を緩めることはなく、けれど私が叫んだ訴えは通った。
頭上で固定されていた腕が解放され、自由になる。両腕は瞬く間に視界に現れ、痛々しい拘束の痕を見せた。けれど私はそんなものを労わる間もなく三成様の首に手を伸ばし、まるで愛しい人にそうするようにしがみついて、掻き抱いた。

「……痛いか?辛いならもう少し緩慢にやる…」
「………いいえ」

私は嘘をついた。