かつてこんなに強情な自分を想像したことがあっただろうか。
自分を守る為の嘘を吐き出すことがどうしても出来なくて、私は結局啜り泣いて三成様を否定し続けた。

のしかかってくる男の身体を退けようと力を籠めた両腕は一瞬で捩じ伏せられ、縄で手首を縛られたあと、頭上で床に打ち付けられる。
今度は馬のように足で暴れて拒んだけれど、三成様は一撃食らって顔を歪めただけで終わった。その一撃の後、激しく頬を打たれて私の方が足掻く力を失ったのだ。

急襲する酷い痛みと口内に広がる血の味が、私の反駁心など殺してしまう。そして私は大人しくなったけれど、三成様の怒りは鎮まらない。

「い、嫌…!!」

嗚呼、本当にどうしたのだろう。
一度は逃げ出したことを謝罪してみたり。赦しを貰えた途端にこれだ。
己の保身を思えば大人しく従うべきだ。愛していると嘘をつけば、この人はきっと至上の愛をくれる。
けれど私は本心しか叫べない。

「誰かッ…、誰か助けて…!」
「ッ……何故だ?舞雷…!」

三成様は顔に怒りと苦しみを刻んでいた。私の口を手の平で覆うように塞ぎ、もう片方の手で傍らにあった刀を掴む。恐ろしいものに手が伸びたことを視界の隅に見とめた私は、涙を大量に流して視界を霞めた。

「私はお前を愛しているだけだ。だというのに、何故逃げようとする?何故そこまで私を拒絶する!」
「んんっ、」
「私には判らない…!!」

私の口を塞いでいた手で三成様は自身の頭を押さえた。
これで言葉は自由になったが、私はすぐに言葉を発する勇気を持ってはいなかった。

三成様は暫しの苦悶の後、握っていた刀の柄に手を伸ばす。
恐る恐るその姿を眺めていた私の胸に、鋭利に光る切っ先が触れる。はだけられた胸元に触れたそれは酷く冷たくてぞっとした。
そして三成様の暗い瞳にも、背筋が凍るような畏怖を覚えた。

「お前の心臓が私を拒むというのなら、こんなものは今すぐ抉り出して喰ってやる」
「ひっ……」
「私を拒む腕も…」
「あぁっ…!」
「蹴り飛ばすしか能が無い足も」
「っう…」
「私を愛していると囁けぬ喉もだ」

言う順に流れるような動作で切っ先が移動した。だから、今刀の切っ先は私の喉元を捉えている。突き立てるような仕草で。

私が何も言えずに震えるだけで動くことさえ出来ずにいれば、三成様は刀を鞘におさめるまでもなく投げ捨てた。
重い刀が床に転ぶ騒音に身体が跳ねる。それでも憑かれたように三成様の双眸から目を離すことが出来なかった。

「舞雷…愛している…!」

恐ろしく理解不能な優しい手が私の頭を撫でた。ついさっきまで私の喉を裂こうとしていた癖に。

だから判らなくなるのだ。私はどうしたらいいのか。どうするべきなのか。この人が私をどうしようとしているのか。

今彼は泣きそうな顔をしている。

「…三成、様……」

お願いだから、そんな顔しないで。