「それほどに私が憎いか」

冷たく、射殺すような声だった。

何故私は刑部様に救いを求めてしまったのだろう。あの方は三成様の友人だし、とても慈悲深い人ではない。そんなこと判っていた筈なのに。
……しかし、それでも救いを求めてしまったのだ。与えてくれる筈もない相手でも。

三成様は私の逃亡を知って酷く憤った。そもそもそれがおかしいのだ。罰するかのように城に連行した私を一方的に寵妻とし、恐怖で以って拘束しておきながら、逃げることを赦さぬなどと。

「私を裏切るのか?」

だが此処で私が正論を返してどうなる?裏切りなんて働いていない。企ててすらいない。私が此処から逃げたいと願い、駆け出したのは、ただ正しい行動だった筈。けれどこう糾弾しても、怒りに火を足すだけで終わってしまう。

答えに詰まる私を三成様は強く床に組み敷いた。体中を強打し、鈍い痛みが全身を廻る。覆いかぶさってくる三成様に雄を見て怖かった。その前に、刀身の鋭い輝きが喉元に咬みついて、殺されるのか、犯されるのか、それとも私が否定を吐いたら別の結末があるのか、考えに溺れた。追い詰められて本音を吐いてしまいそうになった途端、吐いてしまえば刀を選ぶことになると思った。必死に口を噤み、赦しを乞えば、恐らく強姦で済む。

「………」
「答えろ!」

考えていた。決めかねていた。決断は限りなく辛抱する方に傾いていたけれど、その道を選んでも耐えきれるのか不安だった。痛めつけられることも殺されることも恐ろしすぎたが、臆病者の私には、どちらの道も辛すぎたのだ。
咬みつくように怒鳴られ、選択せねばならなくなると、当然私はこちらを選んだ。

「赦してください、三成様…私、どうしていいか判らず、混乱して…」
「一時の気の迷いだと言うのか?」
「はい…私が間違っていました…」

私は間違ってなかった筈なのに。

「間違っていたんです…!どうか赦してください…っ」
「…舞雷、二度はない。恐らく刑部も大袈裟に言ったのだろう。今回だけは赦してやる」
「うぅっ…」
「お前は私のものだ」

いっそ、

「絶対に逃がさない」

いっそ求めてしまえば楽なのか。

誤った私を戒めるように組み敷くこの男を。貪る唇を、身体を這う手を、捉える腕を。総てを求めてしまえば私は楽になれるのだろうか。

男は甘くなるのだろうか。柔らかく笑ってくれるのだろうか。

「あっ、……い、や、いや…!」
「拒絶は赦さない。ただ喘げ」

嗚呼、しかし。

「嫌、いやッ…!離してっ…」
「結局私を拒むのか?過ちを赦してやった私を、そうまでして裏切りたいか…!」
「ち、がう…、だけど、嗚呼…ッ」

どうして己を偽れようか、愛せぬ男を愛しているなどと。