朝寝坊を決め込んだ舞雷は、日が高くなり始めた頃ようやく目を覚ました。当然三成はとっくに起きて雑務の片付けでその場にいない。
眠気眼を擦り擦り、舞雷はあくびをしながら部屋を出た。そして緩慢に顔を洗い、目が覚めてきた所でさて身支度を整えようと思った矢先。

「なんと成功していたか…!!」
「………刑部様、おはようございまっ…この声は何?!」

急くな鉾星で駆け寄って来た大谷の意味深な台詞からは何も悟らなかったものの、今日初めて発した己の声に舞雷は驚愕した。

「ま、ままま…まさか……!」
「我の力も侮れぬなァ。まさか…」
「まさかぁぁ〜!!」
「死人でもかくも生き生きとした肉体を現すか」

そう、ひょんなことから舞雷と誰かの肉体を交換するという面妖なイタズラが出来るようになった大谷は、好奇心から既に亡くなっていた竹中半兵衛と舞雷を交換したのである。

半兵衛の容姿で思い切り驚いた舞雷だったが、というのも半兵衛が既に亡くなっていたからである。肉体を交換されたこと自体は、憐れや慣れてそこまで驚かなくなっていた。

「こ…これで半兵衛様が万一私の体で歩いていたとしたら…」
「我は死者を蘇生させる力をも持つことになるな。ヒヒッ」
「それでは刑部様が各国の武将達から熱烈な求愛を受けることになるじゃないですか…やれ誰を蘇らせろって」
「…それは遠慮願いたい。まァ、死人が蘇ることはないであろ。だがぬしの姿を三成が見つけると厄介よな。元に戻す故、ぬしの体を探さねば」
「戻す時は私の体が傍にないといけませんか?」
「そうとは云わぬが、万一土の中では戻した後ぬしが死ぬ」
「探しましょう!」

この場合ケースがケースなので、半兵衛が一時的に蘇っているのかも怪しいし、体が土の中かも知れないし、そうでないかも知れない。
大谷の判断に従い、舞雷は高らかに手を上げた。三成に見つかると本当に厄介なことになるのは目に見えていたので、とりあえず着物か何かを頭からかぶって捜索に乗り出そうとしていたのだが、次いで城中に響き渡った叫び声のおかげでそんなことは念頭から消えてしまった。

「み、三成様の悲鳴ですよ!まさか敵襲?!」
「……いや、」
「何をもたもたしているんですか刑部様!早くいかなくては!!」
「我は今の三成の叫びを聞いて全てを悟った」
「え!?」

大谷は一人慌てている舞雷を冷静に引き連れ、三成が大声を上げた場所…元半兵衛の私室へ向かう。
二人が部屋を覗きこむと、其処には綺麗に横たわった舞雷がいた。

「……やっぱり、死んだ方は蘇らないと言うことですか?」
「当然よなァ」
「舞雷なぜ半兵衛様の部屋で死んでいるのだ!!!」
「あ…私が死んだことに…」
「必然よなァ」

なんとなく部屋には入らず入り口付近で会話していた舞雷と大谷であったが、微動だにしない舞雷の体に寄り添う三成があまりに嘆いているので、半兵衛の姿をした舞雷を見て万一失神でもしないよう大谷が早口で捲し立てた。

「三成よ、振り返ると竹中殿の姿をした舞雷がおるが決して竹中殿ではなくそこでこと切れているのは舞雷の姿はしているが舞雷が死んだわけではない」
「半兵衛様!!?何ッ、舞雷?何だ一体!!」
「いいから目を閉じて十数えよ…その間に戻す故な」
「壱弐参肆伍陸…」

思い切り悲観したり混乱していた三成は、わらにも縋るつもりで大谷の言うことを聞いた。

「拾……舞雷…?」
「あ、普通に戻っ・」
「さっき半兵衛様もいたしお前死んで…」
「三成、ぬしは白昼夢に犯されていたに違いない」
「………」
「働きすぎだ、舞雷と共寝でもして休むことよ」
「……私そんなに眠くな・」
「さて、我が布団を敷いてやろ」
「………」
「刑部様……」

バレると色々面倒だと判断した大谷は、ごり押しで誤魔化した。