「……?」

何故か急に立てなくなった舞雷は、ちょうど向かいからやって来た三成を見つけて声をかけた。

「三成さま、抱っこしてください…」
「……!!」

この時舞雷に向けられた三成の批難の目は、彼女のトラウマとなった。
当然、そんな目を向けられたことのない舞雷である。激しく傷つき、怯え、泣いた。しかし誤解ならばそれを解こうと必死になって撫でまわす筈の三成は、近寄るどころか遠ざかる。それに気づいた舞雷は更に悲しくなってめそめそ泣き続けたのだが、やはり現状は変わらない。

「なんの真似なんだ、刑部……!」
「……へ?」

自分は嫌われてしまったのだろうか。そう思った舞雷の耳に飛び込んできたのは不思議な台詞。周りを見ても大谷の姿はない。三成がからかうことはないし、暫くぽかんとしていたが、心当たりがあった。
舞雷は恐る恐る、その可能性を脳内で否定しつつも、頭を下げた。まるで己を見つめるように。そして飛び込んでくるのは包帯まみれの体。ぺたんこの胸。

「ひ〜か〜り、と〜かげの〜♪」
「歌うなああぁあ!」

まぎれもなく刑部大谷の、歌声。

「うわあん三成さま!今度は刑部様に!私、また入れ換わってます!!」
「…なんだと……?」
「本当です…だから飛べない…私じゃ飛べない…うぅ…」
「わ、わかったからその姿で泣くな…ぞっとする」

以前同じようなことが起きたので、三成もそれなりにすぐ現状を受け入れることができた。へたをすると大谷がからかって…ということも考えたが、此処まで己を貶める理由もない。
三成はとりあえず、舞雷の姿となったであろう大谷を探すことにした。

「健康体の素晴らしさ!なんとも爽快よな!!」
「………私は見てはいけないものを…」
「ああ…筋肉痛になる……」

探すことにしたのだが、舞雷の姿となった大谷が激しく走り回っているのを目撃した。

「刑部!!」
「おお、三成…と、我…いや、舞雷か」
「貴様も日輪を拝んでいたのか!(※毛利版より)」
「まさか。これは我の仕業よ」
「何―――!!」
「ぎょ、刑部様!そんな技を身につけてしまったのですか!」
「ヒヒッ」
「貴様、舞雷の体と声で気味の悪い笑声を零すな…!」
「すまぬな三成。我も暇ゆえ、色々画策していたら、出来てしまった」
「だからってどうして私と!」
「一度は経験している者の方がよかろ」
「なら元就様としてください!」
「それはならぬ。同胞の頭の血管が怒りで切れてしまうわ」
「私の頭の血管が怒りで切れることは考えなかったか、刑部…!」
「そうやって錯乱しているぬしを見るのは愉快愉快」
「なんだと!!」
「………」

何故か大谷の暇潰し観察相手として指定された三成はかなり怒り狂ったものの、結局は友人をその他大勢のようには斬り捨てるはずもなく、しかも今は舞雷の姿をしているので余計大谷は安全というわけだ。

「戻りたいです、刑部様…私、飛べたら楽しそうなのですけど」
「なに簡単よ。我が教えてやろ」
「刑部貴様、いいから元に戻せ!!」
「え、私にも飛べますか!?」
「もちろんだとも」
「そのいやらしい笑みを辞めろー!!」

大谷が中身だと、舞雷の笑みが怖い。
肝心の舞雷が宙に浮くのをあまりにも楽しみにしていたため、かなりの勢いで無視され続けていた三成はずっと、ずっと叫んでいた。日が暮れるまで。

「私の可愛い舞雷を返せ…!」
「あいわかった」
「え、もう?」

飛ぶことに成功し、アトラクション気分だった舞雷は少しがっかりした。

「や、やっぱり……!」
「ん?」
「筋肉痛で…動けない…!」
「………」

翌朝舞雷は筋肉痛になった。