さて、身体が入れ換わってしまった舞雷と毛利はいささか揉めた後、誤魔化しきれなくなった三成の部屋になだれ込んで事情を話した。
しかし話を聞いた三成はいまいち半信半疑で、舞雷の姿をこれでもかと利用した毛利の台詞に少し傷ついてもいた。おかげで珍しく舞雷には纏わりつかず(といっても中身は毛利なので彼にとっては幸運だったが)、間に座って苦い顔をしていた。

「解決策が見つからぬ。大谷に助言を求めたいのだが、奴はいずこだ」
「…無表情の舞雷はあまり可愛くないな……」
「おい石田、我の話を聞いているのか?」
「とにかく可愛くない」
「……中身が我では舞雷の可憐さは映えまい。そんな当たり前のことはどうでもいい、大谷はどこだ」
「じゃあ三成様、元就様はどうですか?中身が私ですから、大分表情があると思うんです」
「おぞましい」
「お、おぞましいって…ちょっと鏡を…」
「やめよ舞雷!鏡を覗きこむは我が禁ずる!」

誰であれ、いくらなんでも思い人に気持ち悪い自分の姿など見せたくはない。毛利は必死に舞雷を止め、とにかく話を聞いていない三成を睨みつけた。

「この事態を即座に収束すべく大谷と話さねばならぬ。早く大谷を呼べ腑抜けめ!」
「……待っていろ」

毛利はいつもの調子で言いたいことを言ったのだが、此処で三成が腹を立てなかったのは彼としても少し気になった。しかしあまり深く考えるまでもなく、自分の容姿が舞雷なのだと再認し、一瞬で疑問は晴れる。なんともつまらなかった。
三成は大谷を呼びに席を立つ。

「確かに、可愛くありませんね」
「…何?」
「無表情の私です。いつもは可愛いなんて言ってませんよ、でも…いつにもまして、可愛くないです」
「……表情のある我は見るに堪えぬ。それと、貴様は可憐ぞ…中身が我でなければな…」
「元就様……」

お互いが違和感のある己を目の前に、二人の雰囲気が何故か良い感じになった。こんなところを三成に見られれば怒りは必須、嫉妬でどうにかなりそうなものだが上手いこといない。

「我はずっと貴様を欲してきた故…かような事態に少しは気が揺らいだが、誓って貴様の体には必要以上に触れてはおらぬ」
「…………」
「それも貴様への愛が為よ…。我がいかに誠意ある愛を抱いているか、これで判ったろう」
「え、ええ……とても嬉しく、思います…」

自分の自室で愛しい女の体になればいやらしいことの一つ二つ…というのは仕方ないとして、それを否定する毛利にどういうわけか舞雷はときめいた。
しかしかといって愛するが代わるわけではない。

「でも、私は三成様のものですから」
「………わかっている。いつかあの男に飽いた時、もしくは我慢がならなくなった時でもいい。我の胸は貴様の為に開けておく。いつでも来るがいい」
「…ありがとうございます……」

妙にしんみりした雰囲気の中、それを察して部屋に入れぬ影がふたつ。

「刑部…私はどうしたら…!」
「何簡単なことよ、いつものように怒り、暴れればよい」
「だがどっちが舞雷か判らんのだ…!」
「………はァ?」

まだ事情を聞かされていなかった大谷は三成の発言に「莫迦になったか?」と本気で思った。

「ああ、そういうことか。まこと面妖な…。我の予想が正しければ、日が陰れば戻る」
「本当だろうな大谷」
「さて、我にはわからぬ」
「もうすぐ日が暮れますし…少し、待ちましょう…」

頭を押さえて悶々としている三成を無視して大谷が部屋に入り事情を聞き、根拠のない予想を吐いた。しかし全員それに縋る他にない。

「毛利」
「…なんだ」
「ぬしが無事己の体に戻ること叶えば、入り口で悶えている三成に気をつけよ」
「………いるのか」
「いる。ぬしが舞雷を誑かしていたのをしかと聞いた」
「……舞雷、こうせぬか。もし戻ったとしても暫く石田を欺く」
「で、でもそれだと三成様を裏切ったことになりかね・」
「奴は浮気と思っているに違いない。貴様も酷い仕置きを…」
「はい、暫く元就様のモノマネをして過ごすことにします」
「愉快愉快、ヒヒッ」

結局日が暮れたと同時、大谷の予想通り二人は元に戻った。
戻ったのはいいが、入り口付近にいるという三成がため、二人は複雑な心境のまま外へ出る。

「!なんだ、何か変わったのか」
「い、いや、何も、かわりま、ぬ…しばらくわたっれは、我は、舞雷として過ごし、す」
「………刑部貴様何をした?悪化しているじゃないか」
「知らぬ存ぜぬ」
「…毛利軍の皆が不審に思うでしょうから、戻る迄私は元就様のふりをして過ごします(口マネ慣れた)」
「……待て、これは舞雷の姿をした毛利か?」
「そうっ、である!」
「そうです」
「ならば舞雷への仕置きも出来んし、毛利への制裁も出来んではないか」
「(やっぱり私への仕置きあったー!)わ、忘れるがいい!そんなことはな!」
「(舞雷め我のキャラを履き違えておるわ…!)お仕置きだなんて酷いです…。こんな事態なんですから、どうかお忘れに」
「……毛利の、舞雷。無表情だな」
「ギクッ いえそんなことは…!(激しく引き攣った笑顔)」
「それに舞雷の、毛利」
「え!?」
「随分女々しくなった。まるで嘘をついている時の動揺しきった舞雷そのものだ」
「ギク! そ、そんなことないぞよ!」

少し鈍かった三成はここへきて鋭い勘を働かせた。
抜群のモノマネかと思いきや表情を作ることが出来なかった偽舞雷毛利。そして口マネが激しく下手な上無表情さえ作れなかった偽毛利舞雷。
凶王の眼光が鋭くなる。

「…大体な、舞雷…毛利はそんな口調だったとは私には思えん…」
「う、うぅ……」
「それに毛利…私は舞雷の前で無表情のお前は可愛くないと発言した。その直後無表情でいる筈もない…」
「…くっ……」
「貴様らいつから私を騙していたあああぁあ!!」

誤魔化そうとしたのが仇となり、三成は激しく遡って二人は確実に浮気の上駆け落ちという勝手な被害妄想に取りつかれた。

「違います三成様――!今です、今!刑部様なんとか言ってください!!」
「愉快で我は何も喋れぬ。ヒヒヒッ」
「何を笑っておるか大谷!やめぬか石田、我は丸腰ぞ!!」
「知るか、大人しく斬り刻まれろ!そして舞雷は尻を出せ!!」
「た、助けろ大谷!!」
「〜〜〜〜〜っ!!(笑い過ぎて悶絶)」
「ごめんなさい〜〜!!」

結局先に捕まった舞雷が尻をぶったたかれている間、毛利はなんとか逃亡に成功。笑い過ぎて過呼吸を起こした大谷が失神する事件のおまけつきで、とりあえず事は収束したのだった。