「…我は日輪を崇めていただけ。怪しいことはしておらぬ」 「私も、久しぶりにみたお日様にばんざいしていたくらいで、怪しいことなんてしてません」 「………」 「………」 「それか…」 「…ですね」
大阪城で揉めていたのは舞雷と毛利。 異色の組み合わせだったので、通りかかった兵士たちは、何故此処に毛利がいるのだろうととても不思議に思った。しかも舞雷の方が些か偉そうな口調なのもとても気になったが、好き好んで毛利や三成の過保護が纏わりついた舞雷に突っ込みをいれる兵士などいない。
「でも良かった…今日は早朝から軍議があるって三成様も刑部様も部屋に籠ってたんですよ。もしこの状態で見つかってたら、抵抗の術もなく元就様の体は切り刻まれ…」 「やめぬか!騒がしいのは我とて同じよ。我が軍の兵士共が、石田の姫が愛想をつかせて我の元に逃げて来たと、我を探して騒いでいた」 「…元就様の所に私が現れると、兵士たちはそう解釈するんですか…?」 「我が領地にて貴様の姿を拝んだとあらば、それは我の胸へ飛び込んできたも同然と教えてある」 「そ、そうですか……」 「………とにかく解決策を見出さねば」
実は舞雷と毛利、共に日輪を拝んだ所為で身体が入れ換わるという奇天烈な事態に見舞われていた。 勿論身体が入れ換わっただけで中身は変わらない。当然居場所も変わらない。へたを打てば敵襲だの間者だのと騒がれて当然のところ、とりあえず二人はなんとかしのいで、舞雷の姿をした毛利が大阪城まで来たのだが。
「身体が入れ換わった原因だけは判ったものの…また共に日輪を崇めれば戻るとも思えぬ」 「…一日も経てば、自然に戻りますよ、きっと…」 「………」 「そうでなければ困ります…!」
困るのは毛利とて同じことだった。 大体、彼は舞雷を隙あらば凶王から略奪しようと狙っている程だが、目に飛び込んでくる姿は自分そのもの。いつもなら加虐心をくすぐる困り顔が、自分のものでは気色悪い他ない。
「…舞雷。我の顔でころころと表情を変えるのはやめよ」 「え、そんなことおっしゃられても…」 「それからその女々しい口調をどうにかせねば、我も貴様が恥と思うことをする」 「やっ、やめてください元就様!」 「大声で名を呼ぶな!周りから見ればただの阿呆ぞ!」
自分の異変に気付いた二人が外へ飛び出し、ちょうど鉢合わせたのが大阪城の入り口付近。兵士たちの出入りもそれなりの場所で会話していたため、気づけばまた兵士数名に聞かれてしまった。 勿論、驚きはするが兵士たちは口を挟まずいそいそとその場を去る。が、さぞや疑問に思っただろう。舞雷様と毛利元就、何の遊びをしているんだろうと。
「……とにかく、此処は大谷に相談して…」 「あ」 「…どうした」 「まずいですよ、元就様…私の仕草が嫌だなんて言ってられなくなります…」 「……それはどういうことだ?」 「刑部様は大丈夫として…三成様が……」 「……」 「三成様が、元就様に纏わりつきますよ」 「震…!」
舞雷の姿をした元就が、初めて表情を崩して身震いした。 かねてから見苦しい程舞雷にべったりな凶王が、知らぬとはいえ自分に纏わりついてくるなど気色悪くて耐えかねる。
「それはいかにもまずい…!舞雷、とにかく大阪城を出るぞ…!」 「そうですね…ッ、きゃあ!」 「!!」
大谷に連絡をとるのは書状でもいい。とにかく石田に見つかってはならない。と毛利は考え、すぐさま城を去ろうとした。だが出口に身体を向けた瞬間、自分の声が気色の悪い悲鳴を上げた。 まさかと振り向けば、鬼の形相で毛利の姿をした舞雷の首根っこを掴んでいる石田三成。
「貴様、どこから涌いた…そして私の舞雷とどこへ行く……?というか気持ち悪い悲鳴を上げるな虫唾が走る」 「あ、あわわ…!」 「あわわ?意味がわからないがとりあえず斬首だ毛利!」 「…やめよ石…ッ、ゴホン、やめて三成様(棒読み)」 「!!(も、元就様がまさかの私のマネを!!)」 「何…?」 「ちょっと元就様に相談したいことがあるの邪魔だから元就様を離してどこかへ消えて空気読めない三成様ほんと邪魔(恨めしそうに)」 「なっ、なっ、舞雷……!?」 「(マネするならもっと完璧にお願いします元就様―!)」 「これは良い、はじめからこうすべきであった。私本当は元就様が好きだから、離縁して」 「ちょ、もう黙って聞いていられませんよ元就様!」 「……なんなんだ…?」
どうせ石田には話しても判るまいと毛利は判断し、舞雷を装ってことを穏便にすませようとしたのだが、悪の心が邪魔をして言い過ぎた。 おかげで舞雷は合わせるのをやめたし、自分も普段の口調が飛び出したりしたので、本気で傷ついたりした三成もこれはおかしいと首をひねる。
「だから元就様が好きだって言ってるでしょ!離縁したいって言ってるの!早く元就様に大人しく渡して!!(熱弁)」 「…ん……?やはり舞雷か…?」 「今の私に似てました!?違いますよ三成様、私と元就様は身体が入れかわっ・」 「私以外の誰だと言うの。これからは元就様と生きていきます」 「………ぐすっ」 「三成様を泣かせないでー!」 「(なんと泣くのか…)じゃあね、さよなら」 「おのれ家康……ぐす」 「(何故家康様…)ああもう!私怒りましたからね、元就様!こうなったら褌一枚で国中を走り回ってやる!」 「なんだと!恥を知れ!」 「私の台詞です!!」 「それをするなら我とて日頃貴様に触れられぬもどかしさ、己で解消するわ!」 「え、や、やめてください卑怯ですよ!!」 「黙れ!」 「(…だから一体なんなんだ…)」
三成は本当にわけがわからなくて、口調が急に激変する様子のおかしい舞雷とはじめから気持ち悪い毛利の口論を眺めていた。
|